新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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春水に臥す  後

沫雪は春の涙、触れれば…それは

天と地が一つになる処 全てが始まり終わる処

新羅

これはその国の一人の女王と、遥か時の果てまで名 のみ伝わる一人の男の物語…

SS 愛してはいけないから

『春水に臥す』  後


ピダムは卓上に肘をついて手の甲に顎を乗せて目の前で繰り広げられる贅を尽くした宝玉で作られた駒で繰り広げられている盤上の戦を少しばかり退屈したように眺めていた。

盤上は唐から来た豪商がやや有利だがその実戦はチュンチュの思い道理進められている。
豪商の方も腕は悪くないだが相手が悪い…
また惜しいとこで彼は負け砂金を積むことになりチュンチュは旧知の恩人にいかにも人の良さそうな風でその砂金を帰し交易の条件でも話のなかに忍ばせるのだろう。

(茶番だな…)

ピダムの美しい眉がそう思い微かに上がる。

「公、公も一盤いかがですか?」

豪商が砂金袋を持ち上げながら柔和な笑みをピダムにむけた。

「いや‥私は何故か金には心ひかれぬのです」

「ほほぅ…ならば金より良いものをご用意いたしましょう」

「……」

パンパンと商人が手を叩くと艶やかな美しい女や少女が表れた。

「これはこれは」

チュンチュが目を見張る。

「砂金袋がお好みでないならこの者達では?」

中でもほころびかけた李花の様な女人がピダムの側によった。

「ピダム公だけ狡いではないか」

チュンチュが人の悪い顔で楽しそうに言う。

「………大人、私は不調者ですお心使いだけ頂きます…ですがお気を使わせましたゆえ一盤だけお相手させて頂きましょう」

ピダムはそれには明るくはない、がチュンチュと大人の勝負を何回か眺めているうちにおおよそ理解している。
囲碁とはまた違い地を争うというより敵の大将駒を奪えば良いと知れる。
ピダムは指してみて大人の腕はこれはチュンチュより上であったやもしれぬと思った。

(老獪なじじいだな…チュンチュの奴爺さんを手玉にとったつもりか、いやいや砂金を奪われるのも爺さんの思惑どうりというわけか…だが何故?)

ピダムの初心者らしからぬ駒の動きに見物のチュンチュは内心舌を巻いていた。

(化け物みたいな奴だな私と大人との勝負をちゃんと見ていたとも思えぬが、見ていたとしても並みの者ではこうは巧者に指せまい…確かにこの八八象棋遊びピダムは知らぬ風であったが…)

(この御仁はチュンチュ公が思っておられるよりずっと恐ろしい方のようですな…さあさあ面白い、この国の女王はどちらを頼みとなさるのか…いやまだまだ他にも勇猛な方々がおられるとも聞くがだがこのお二方は妙薬か猛毒か紙一重なところが似ておられる…だがそれ故並び立てまい…)

駒を進めながら三人三様の思惑をもっていた。

李花の佳人はそんな三人を代わる代わる見つめて…ピダムの見事な手に嬉しいげな笑みをもらした。

ピダムは悠々と勝ちを収めた。

「どうでしょう?お気に召す者がおれば幾人でもお連れください」

「お気持ちだけいただきましょう…不粋者です」

大人はどうやら金も女も目もくれぬらしい扱いづらい男を面白くおもった。



その後ピダムが一人ていると追いかけてくる声があった。

「何故お断りになりましたの?」

振り替えれば先程の李花の女人、透けた薄水色の地に小さな真白な花が金糸の中にはらはらと散る可憐で優雅な衣が風に靡いている。

「興味がない、それだけです。」

「女はお嫌いですか?」

ピダムは僅かに迷惑そうに黙った。

「………‥」

「私は旦那様が気に入りましたお嫌なことはいたしませんわ、大人に言われたからではありませんきっと………」

(きっとその底知れない渇きを私も知っているからかもしれません)

「私をお連れください」

ピダムはその大層美しい女をじっと見た、そして少し揶揄するように言う。

「私のものになりたいのですか?」

「ええ…全部‥そして公を私のものにしたいの…」

「大胆な方ですね…」

「可愛いと仰ってください…」

そう言って鈴をふるような声で彼女は笑った

「私は思う方がいます。」

困ったようにこの美しく物怖じしない女にピダムは言った。
そう聞いて彼女はつんと顎をあげて生意気な事を言う。

「どのくらい?その方を山より高く想ってらしても海より深く慕ってらしても私かまいません。」

ピダムは悪意や嫌味の無い育ちの良い大胆さとそれに見あわぬ必死な物言いにふと何故か誤魔化さぬ心を伝えていた。

「……その方故に私は己の母を手にかけました。」

(そう、手にかけたも同然)


「!……………。」


「お嬢様、お戻りなさい座興は終わりました。大人も心配しておいででしょう…」

「気づいてらしたの?」

「幾人美しい女がいても品というものは天が与えるもの大人のお嬢様のような方でなければ与えられませぬ…」

(大人とチュンチュの目を見ればわかる好色なものがなかたからな…)

「でも…こんなに悔しい思いをしたのは初めて」

少し涙汲みながらピダムを見つめ、不意に背伸びして彼女はピダムに羽のようにフワッと口づけた。

ピダムは驚き見つめる。

「公のお気持ちはわかりました。
でも、この数日公を見ておりました。

…私それでも公が欲しい。」

そう言って彼女は身を翻した。


ピダムは無意識に己の唇に指をあてた。

“陛下”…

瞬間ピダムはトンマンが恋しくて熱くなるほどトンマンが欲しくなった。



翌日ピダムは大人に呼び出された

「公はなかなかのお方ですな、あの娘を参らせておしまいになられるとは…チュンチュ公などあの娘の言いなりですだからこそ妻にはいたしかねると仰有る、もっともあの娘のほうでもチュンチュ様は兄上の様なお方と思っている様子、あの娘からの伝言です“私諦めませんですから絹は我が商会が新羅の物を高く買い取ります”だそうです…が、何のことやら…
ですがどうやらピダム公はチュンチュ様を出し抜かれたようですな」

「我が国の絹は貴国の物に劣らぬものです大人はその交易の権利を手にされました」

「あの娘は私の本当の娘ではありません、倭国の皇統に繋がるお方です故あって我が娘としてお育てした姫君…公、あの娘は故国の土を再び踏むこともなく王族として生きることもない…」

「………王族などというものは何れの国も残酷なものですお嬢様は大人がおられ幸いと存じます…交易のこと確かに陛下にお伝えいたしますきっとお喜びでございます」

ピダムは静かに礼をとり去っていった。

ピダムを見送り踵を返した大人の前に扇を手にチュンチュが表れた。

「奴を気に入りましたか?」

「さあ…確かに今回見せて頂いた刀剣のなかで稀にみる一ふりでありました、流石に女王陛下の懐刀ですな…だが些か切れ味が良すぎます」

「いけませんか?」

「使い手をも斬るそのような剣に思えました」

「……そう、あれは危険な剣です」

大人はそう語るチュンチュの微笑みの下にある暗い焔に気づき沈黙を深くした。




ピダムは急ぎ馬を駆けさせ帰着した。


“ピダム、本当には側を離れてはならないんだから…”


仁康殿を駆けるように歩いて女王の私室へと向かうピダムに女官達が驚き足を止めて頭を垂れるのも忘れ振り返る。


トンマンは感じていた、ピダムの沓音が聞こえてくる…

それはまるで瀬を早むように沫雪溶けゆく水の流れ
彼女は寝台に臥してその流れを聴いている。


その水音だけが花を秘めたる木々の心を知るように
逸るように近づく沓音だけが臥して待つ女王の心を知るのであった。




*『春水に臥す』  後
お読み頂きましてありがとうございました。



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