新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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花香…2

SS 愛してはいけないから(番外編…現代)


『花香』…2


*******


春の宵闇に何処からか花の香りが風に乗り運ばれてくる…

「ピダム…この辺りか?」

「はい、この先の角を曲がれば」

ピダムは仄白い闇に目をこらし道の先を見た。
トンマンもピダムの視線を辿るように同じ方向を見た。
不思議なことにその先へ踏み出せば何故か闇が濃くなる、そんな気がした。

「行くぞ、ピダム」

踏み出そうとした公主の腕を捉えた。
ピダムは自分の頸の後ろ辺りがチリリとするのをは感じていたからだ。
何故ならそれは昔から危険を予知するかのように時に彼に何者かがそれを知らせる合図のように感じるものだからだ。
そして確かに今彼の頸の後ろはチリリとしていた。
腕を捉えられトンマンは訝しくピダムを見た。

「どうした?」

「いえ、お気をつけください…」

(ただならぬ気配を感じる…これはなんだ、これは…)

ピダムの緊張が掴まれた腕を通してトンマンにも伝わってきた。

「何か、感じたか?」


「………」

ピダムは無言であった。

(これは…、いや‥確かにずっと以前出会ったあの獰猛な威圧感そして殺気!)


「………いえ、気配が‥消えました」

「何者か?」

「…思い過ごしです」

「痛いぞ、少し力が強すぎる…そなたも緊張するのだな」

そう言ってトンマンは彼の腕をぽんぽんと軽く叩いた。

「申し訳ありません」

ピダムは腕を離したが、歩きだそうとしたトンマンの手を握って

「こうしていましょう」

そう言った。
トンマンは驚いて見上げたがそう言ったピダムの顔がいつになく強張っていたから、なんだかそのままその手を離しそびれた。

そしてその誘うような花闇に向かって二人は踏み出していった。

この前調べた時とは何かしら違う邸の並びをピダムは訝しく思いながら歩いて行く。
そうして歩くと暗闇のなかギィーっいう音が恰も聞こえるように六間ほど先の屋敷の木戸が風にでも押されたように開いた。
一瞬顔を見合わせた二人は頷きその扉へと急いだ。



「ピダム…」

トンマンは思わず声をあげた。

「これは…このように早く、梅が咲いているとは…」

扉の中へ足を踏み入れた二人は白梅紅梅の咲き乱れる梅林の中にいた。

ピダムも思わずその不思議な美しさに驚いたが庇うようにトンマンを後ろにやった。

「これは、これはお客様…おやこれは珍しい…龍をお連れですね」

そう響くような深い声が闇の中から聞こえて続いて一人の立派な体躯の男がまるで獲物に襲いかかる前の獣のように足音もなく現れた。

「……そなた、この屋敷の者か?」

「はい」

「近頃このあたりで奇妙な事件が後をたたない何か知っているか?」

「……龍の後ろに居られます姫様に申し上げます」

「………」

「お城までお騒がせいたしましたこと、まずお詫び申し上げましょう」

「ならばやは勾引かしはそなたの仕業と?」

「勾引かし?いえちゃんと皆様お返ししたはず‥たんと楽しい思いもして…何かいけませんか?」

「…お前、俺と会ったことがあるな‥その金色の双眼!」

「まだ私は姫様とお話ししている途中だ!随分無粋な龍のを連れてお出でだ」

「お前が先程から龍と呼ぶのはピダムのことか?」

「ピダム…ピダム、ああ確かにそんな名前でした、もう十年もそれ以上も前不敵にもこの私に傷を負わせた子供がいました」

そういって男は袖をたくしあげ腕を見せた。
そこには深い矢傷の後があった。

「覚えているか、龍の小僧?」

「……お前俺を探してきたのか」

「勘違いするな、ようやっとこの新羅にも春が来たと知り見に参ったまで、そして此方にお運びいただいたというわけさ、まさか月城まで行くわけにも参るまい。私が会いたいのはその姫様だお前ではない」

「!いったい公主様になんの用だ!?」

「だからさきほど申した通り私は三韓の女王の顔を見に参ったと、…確かにその甲斐があった…が女王は思いもかかけぬ随臣をつれておったがな」

これは面白い、とばかりにその男は笑い金色の眸を目映いばかりに耀かせた。

「公主様、こいつは人ではありません!」

「ピダム!?」

トンマンはピダムのすぐ後ろからその身なりの大層立派な大柄で体格のよい隆とした様子の男をじっと見た。
その時たっぷりと蓄えられた口元の髭が揺れ金色の双眼が辺りに広がるように強い光を放ち凄みを増して耀いた。

トンマンは制するピダムに首を振り一歩前へ出た。

「私は三韓の女王に成れるか?」

「…恐らくは‥ただ人の子の命は短い急がれよ女王」

「大層な言葉を頂いた、名を訊いてもいいか?」

「雲白と申します」

「それと女王にもう一つ申し上げておきましよう、龍の扱いにはよくよく注意なされよ、吉とも凶ともなる駒ゆえ」

トンマンは後ろで今にも切りかかからんと剣を抜くピダムを後目にの雲白の言葉に微笑んで頷いた。

「雲白のご忠告忝ない胆に命じましょうだが、龍は国護ると信じる」

雲白はゆっくりと頷き微かに笑い

「この雲白、梅の香りは天の清香その啓をお伝えしたまで」

次にピダムを見て雲白は言った。

「龍ピダム、女王を信じきることだけがきっとお前を守ると思え…もう逢うことも有るまい太白山の主、雲白よりの餞だ」

ピダムはなにおっ!!というように剣を向け地を蹴るように踏み出した。


その瞬間一頭の白い虎が雲間から射し込む月の光に照らされその姿を現した。

梅香のなかピダムと白虎は対峙し其はまるで龍虎画のようであった。

「ピダム止めよ!!」

トンマンの声にピダムの剣先が僅にゆれた一瞬白虎は跳躍し塀を越えた。

「追うに及ばず…ピダム」

トンマンはピダムの手を掴んだ。



月明かりが早春の闇を明るく照らしだしている


「さあ帰るぞ、白虎を追う暇などない人の子の命は短いそう雲白は申しておった、三韓の女王にならねばな」

強くピダムの手を握り甘茶に煌めく眸で彼を見つめ微笑んだ。

「公主様は私の女王です」

ぷっ、と吹き出すようにトンマンは笑い

「ああ、ピダムの女王が三韓の女王になるそれならどうだ?」

それなら承服だとばかりにピダムが真面目に頷くのでこんどこそトンマン公主は誰憚りない明るい笑い声を立てた。


帰り際もう一度二人は夜の梅林を振り返った。


「また逸か会いにくるこの梅花に誓う、必ず女王になると」

トンマンが言いピダムも頷いた。


梅花は微笑み、二人を見送るように思えた…




ソラボルを一時騒がせた怪しげな話しはいつの間にかたち消え誰も公主とその花郎が出会った不思議な出来事など知らぬ。


ただ梅木のみぞ知る、梅香が運ぶ物語。




古書の最後の項に

―――徳漫公主その元名を人明、ピダム郎その元名を炯宗と記す―――――― 一巻

そう書かれてあった。

読み終わって、インミョンとヒョンジョンは何も言えずにいた。

インミョンは驚きと不思議な思いでいっぱいであった。

そして暫くの間二人はただ黙っていた。

静かに閉じられた本を手にヒョンジョンとインミョンは遠い古の時が再び動き出したような気がした。

「偶然でしょうか?」

そうヒョンジョンは言う

「………」

「僕は君が来る以前にこの本を見つけた時、きっとトンマンが逸かここに来る、何故だかそう思ったんだ」

「……でもこの二人が歴史上の二人なのかそれとも、いえ単なる面白可笑しな読本の可能性のほうが高いもの」

「……そう思うの?」

「………………可能性は…………そうね、馬鹿馬鹿しい読本そうは感じないわ、困ったことにね」

そう言う彼女をヒョンジョンは本当に魅力的な笑顔で見つめ次の瞬間インミョンの手は彼の手の中にあった。


不意に何処からか高雅で品のよい香りに二人は包まれた。

驚いて振り返ると店主が立っていて

「それは…」

二人が同時に言う。

「ああ…これはかなり古いものらしいんですが大昔この辺りにあった梅木片です…さあただの古木片ですが焚と香りはいいので香木代わりに時々古書に香りを聞かせています」

「……いい香り」

「きっとこれは時を経ても変わらぬ香りです…」

静かにヒョンジョンが言う。





小路を歩くインミョンの手にあの綴じ本花香がある


「その本、時々見せて頂いてもかまいませんか?」

「‥ええ、勿論それに私この続きを探してみたい」

「僕が探します」

ヒョンジョンの言葉にインミョンのクルリとした甘茶の大きな眸がちょっと楽しそうにキラリと光り

「ヒョンジョン郎一緒にこの本の続きを探すぞ!」

そう言った。

二人は顔を見合わせて緊張が解けたように笑い合った。


そして申し合わせたように振り返った。



振り返ったその先には梅林の中の雲白堂古書店が小さく見えていた。





“白虎が護る花香、時にその香は他ならぬ香りで人の心を拐い奪う、だがその香の中の清らかさを聞くことの出来る者は逸か再び想い合う者と巡り逢う”















*『花香』…2お読み頂きましてありがとうございます。



梅花の香りは天の清香…その香りはきっと想う者、恋うる者達を逸か再び巡り逢わせます。

白虎は毘沙門天の使いとも化身ともいわれています。





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