新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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丹頂(丹王2)

SS 愛してはいけないから

『丹頂』(丹王2)

*******


渓谷に建つ趣味のよい美しい様式の屋敷の中のこのような場所にあるとも思えぬほどの品のよい設えの部屋で湯を使い寛ぎ調えられた卓の上の夕げを前にしていた、
碗に餅米の梨粥、芳しい小粒の金柑が磁器の皿に山盛り
になり棗の蜜漬や色々な豆をつかった汁物、蒸し焼きの魚や鳥と野菜の煮物などが並んでいる。

“お疲れでございましょうご挨拶の続きなどいたしたきところですが…今夜はゆっくりとお休みになられて、明日にでもまたこの辺りをご案内いたしたくぞんじます。”

と、先程の貴凌の口上を思い出しながら甘く温かい粥を女王は口に運んだ。

“梨粥は喉を潤します、田舎の味でございますがなかなかの美味、用意させましたゆえどうぞごゆるりと御賞味ください”

(たしかに豊潤でいて爽やかな甘味が疲れた喉に心地よい。)

あのとき殿君を前に一瞬彼に垣間見せた涙で僅かに腫れた眸と掠れた声ピダムに凭れていた姿は男の心をドクンッと波打たせ次にひたと彼をみつめてきた真っ直ぐに射抜くような堂々とした眸の耀きが彼をまたときめかせたことをトンマンは知らない。

(ピダムあの時あれが最上の策であったか?ああして切り抜けることが…)

女王はそう思い返しながら置いてきた者の顔を思った。

あれからピダムは一度汚れを落とし身支度を整えて顔を見せたが殆ど会話もなく…

「この都度のこと一重にピダムが落ち度申し訳ございません」

「…………」

「陛下」

「今宵はそなたも疲れたであろう、女官のことは殿君に任せよ…不審の必要はない、下がって休むがよい」

「………はい」

そう言ってピダムは別部屋へ下がっていった。

ピダムはあてがわれた室に戻り寝台に座り込んだまま身を横たえることなくただじっと暗闇の中に何かを探すように動かずに、いた。



翌朝、殿君の用意した蜜色に金糸で鳳凰を刺繍した透けるような衣その下から光沢のある翠色の衣、靴は白くやはり金糸で縁を巻いて花飾りがついている。
耳を飾る宝珠は目ずらしやかな七宝に翡翠と紅珊瑚がついている。

ピダムは女王の傍らに立ち身彼女が支度を整えるのを助けながら見つめていた。

それらを纏った女王は美しくその美貌をいやがうえにも耀きますようであった。

(これほどとは…この無視できぬほどの財力…それにあの時現れた頃合いといい…殿君の目的は!?)

そう鏡をみながらトンマンとピダムは互いにその鏡の中の眸で見つめあった。

その時扉が開くのを見てピダムは振り返った。

「陛下…取り次ぎも待たずご無礼をお許しください…!これはピダム公もお出ででしたか」

「貴凌殿、かまいませぬ」

貴凌は振り返った女王の当代随一の画人でも描けまい美しさに感嘆とも溜め息ともつかぬ声を思わずもらした…

「いかがした?」

「いえ、…いえあまりにお美しく不覚にも言葉を失いました」

(これは、欲しい…女王でなくとも欲しいが…女王か女王、尚欲しい)

「殿君は世辞が上手だ…ところで何か?」

「おおこれはご無礼を、昨夜はぐれたお供の方々お連れ申しました…」

「皆、無事であったか?」

「……申し訳ございませぬ我が兵が参ります間、賊と剣を交えられ負傷なされた方が数名おられます」

「女官は?」

「無事との報告を受けておりますが?」

「………いや…世話になりました」

「とことで陛下是非ともご案内致したきところがございますが、大変珍しきものにございます」

「ほぉー…」



雪深い渓谷の豊かな川とおぼしきところから湯上がり水鳥達が戯れている。

遠いどこからか飛来してくる美しい鳥が雪原に降り立ちこの凍らぬ水辺に憩う。

「これは、美しい」

「陛下、お気に召していただけましたか?」

「ああ…」

「どうぞいつまでもご逗留下さい」

「……」

「陛下」

ピダムは殿君の言葉に眦を上げた。

「殿君はなかなか面白き御方…しかもどうやら商才もおありのようだ…逗留したら何をくれますか?」

「絹も玉もガラスも…」

「ほぉー…金や鋼もくれますか?」

「陛下がお望みなら」

(代わりに望むものは副君の座か?それとも…)

「私が望むなら、何でもくれる…か…」

ピダムは貴凌とトンマンのやり取りを聞きながら

(臣下が王に何でもくれてやるとはな…片腹痛い)

そう思った。

「この新羅は全て陛下のものにございますれば」

「なるほど…」


ピダムは無言のまま思う

(女王に密貿易の後ろ楯になれと?殿君、大胆で強かで知恵もある企みを実行に移せるほど…だが、させるか!)

「貴凌殿のお気持ちは分かりました…どうやら殿君は鄙びた場所よりより華やかな場所がお望みと見えるが?」

「陛下!」

遮るようにピダムが思わず声をだした。

「ピダムもそう思うであろう?殿君は唐の大人とも親しい」

「…………」

「ところで殿君こちらに役人は必要ですか?手助けが必要なら気のきいたものを寄越します」

「………役人ですか?」

「‥そう役人、ここには仕事がたくさんありそうだから」

「……これは貴凌参りました」

殿君は女王の言葉による斬り込みを受け思わず笑った。

女王は中央の椅子と引き換えに唐のへの貿易の手段やその人脈を渡せと…さもなくば役人を送り込み暴き罪状をつけると言う。

(たしかに中央の椅子…王妃の子でありながら王の子でない私には魅力が無いとは言えぬな…巨大な富みと引き換えにする価値があるか…さすればこの美貌にも知謀にも恵まれた女王にも手が届く…)

「殿君、私は此処が気に入りました…ですが私の治める場所は広い…見るべき物は見た明後日立つといたします…先程の私の申し出忘れるでない」

女王は晴れやかに微笑んだ。

ピダムはじっと不愉快さを隠しきれぬ眸で殿君を睨み。
ピダムの視線に貴凌は挑戦的な眸を向けた。



夜も更け一本の蝋燭だけが密やかに揺れる…

「ピダム、殿君は明日唐との取り引きでここを空けます、その隙をつきここを立ちます、長居は無用だ」

「御意」

「王統の地でありながらここは余りに危険だ」

「また野盗を使ってこぬともかぎりませぬからでございますね」

顔を見合わせて二人は笑った。

「女官は今夜中に逃せ」

「はい」

「夜明け前私とお前で脱出する。方法は任せる」

「………」

「どうした、ピダム」

「………」

「ここには美しい…私の新羅だ、王の手にするべき地だとは思わぬか?」

「欲しいのはこの地で貴凌殿では無いとピダムにおっしゃって下さい」

「ピダム…」

女王は困ったように真剣な顔で駄々をこねるピダムを見、このような時にごねるピダムに意地悪がしたくなり

「殿君も欲しいといったら?」

そう言った。

「陛下!!」

「ピダム、怒るな…」

「ならば怒らせないでください」

怒り震えるようにそっぽをむくピダムにトンマンは彼の腕を掴まえ引っ張るようにしてその胸に飛び込み眸を見つめ両手で頬を挟み引き寄せるように口づけた。

「くっ…ぁ陛下…」

女王はピダムの下唇を咬むように吸うよいに食む…
ピダムが理性を手放しそうになった瞬間彼女は唇を離して

「怒りは静まったか?」

「………はい」

「ならば手配りいたせ」

「はい」

ピダムは脱出へむけて動き出すため部屋を出ていこうとして急ぎ女王の元へ大股でもどり

「続きはピダムがいたします」

そう彼女の耳元で囁き扉を後にした。



取り引きを前に此方への警戒が僅かに緩んだその隙にピダムは眠り薬を使い一太刀浴びせたい気持ちを押さえ女王の命通り流血することなく裏をかき脱出した。


駿馬に乗り雪原をトンマンとピダムが駆け抜けて行く…


殿君は臍を噛んだ…
やられた!

大きな取り引きを捨て女王を追うことは今は出来ぬ。逃げられたと知った時これほど我があの女王に心惹かれていたかと思いしらされた様で怒りは吹き上がる程であった。

(陛下、ピダム公をそれほど頼みになさるか、私の手より公の手をお取りになったか!)

馬が駆け雪が舞い上がる。

「ピダムしてやったな」

「陛下のご命令通りに行ったまでにございます」


丹頂が羽を舞うように広げている、その一羽の鶴にもう一羽が寄り添いさらに大きく翼を広げる。

「美しいな…ピダム」

「鳥達の王にございます」

「王か…」

雪原を蹴り一気に二羽丹頂は空へ舞い上がった。

「おお‥」

感嘆の溜め息が二人の唇から漏れた。

飛び立った丹頂を見つめて馬上でトンマンはピダムに甘える様に彼の頸に腕を回して

「ピダム、帰るぞ」

そう言った。

ピダムは驚き次の瞬間破顔しギュット女王を抱き締めた。

「陛下…」

「先発した護衛兵たちが待ちくたびれるぞ‥」

いつまでも自分を離さぬピダムに笑いそういったが言葉はピダムの唇に塞がれ続かなかった。

甘く…溶けては消える雪の中の二人はまるで二羽の丹頂の様に睦ましく冷たく清んだ青空に羽ばたくように帰路への旅路を急いだ。







……で、続きます。


*『丹頂』…(丹王2)お読み頂きましてありがとうございます。


ちょっと長めだったかも?
次で丹頂はラストの予定です。

ピダム…どうするかな?(笑)








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