新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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丹頂…(丹王1)

SS 愛してはいけないから

『丹頂』(丹王1)

*******

山々が迫り、道はそれを縫うように続いている。

遅い朝の出立となり思ったより遅れてしまった事にピダムは夕刻までに目的地につくことは難しいやもしれぬと考えこの先の宿のできそうなと処をと物見を走らせた。

僅か三十人足らずの一行でその人数からして女王の行幸とは悟られぬであろう、冨貴豊かな夫人と共のもしくはそういう夫婦という拵えでの旅の一団という体である。
商隊というわけでもなくやや大人数ともみえなくもないが、やはりこの山道、山賊物盗りなどの輩も多い護衛や用心棒の類を伴っての大所帯となることもあることはあったのでやや珍しくはあったがそれほど奇異なこととも道行くものから思われることはなかった。
ただ道すがらの旅人たちが噂しあったのはその冨貴の夫婦者が大層なめったとない美男美女であったことの方であった。

「おい、今の見たか」

「ああ」

「あんな別嬪生まれて初めて見た」

「…ああ上等な衣に包まれていてちらと見えただけだが、ありゃぁなんて言うんだかうちのかかあなんかと同じ女たぁ思えねー」

「……お前んとこのかかあどころかきっと廓にもいねぇ」

「チッ‥ああ、だがあの別嬪をもう一回見ようとしたもんならきっとあの一緒に馬に乗ってた旦那に殺されちまわぁ」

「まったくだ、あの旦那も女がほっとかないような風貌だったがあの眼がな」

「ああ、違いねぇそんじょそこらの奴じゃ太刀打ちできねーな…」

「だがこの先が危ない危ない…」

などとすれ違った一行を振り返り振り返り小商いの商人らしき男二人は一行とは反対へとちらちらと小雪の舞う道を急で行った。



「陛下この山の峠を少し越えた辺りに宿が有るようにございますそこを下れば功城県は後僅かにございますがやはり山の夕暮れは早ようございますれはやはり宿をとるのが上策と思えわれます」

「雪は美しいが、思わぬ難儀なものでもあるな…それにお前があんな…」

と最後に言い昨夜を羞じらうようにちらりとピダムを睨んだが、目元を仄かに染めての愛らしい睨みはピダムの胸を甘くさせ

「申し訳ありません」

と言いながらも後ろからギュット彼女を抱き締めそして

「ピダムっ」

と、また睨まれた。

向かい風に雪がふわり、またふわりと舞い二人の頬にあたり溶けては消えてゆく…



午後の僅かな日差しの後山間の道は急速に日暮れへと向かい始める。
気温の下がり始める気配を感じて

(このままでは陛下をお連れしての雪夜の峠越えを行うことになりかねぬそれはあまりにも危険だ)

ピダムは配下の者に合図し徒の者を馬に引き上げ急ぎ日暮れ前一気に峠を越えようとしたその時、怒号のような唸り声が幾つも聞こえ前方から隊に何者かが一斉に襲いかかってきた。

「何事か!!」

ピダムの声が響く。

「公、野盗でございます」

「何!?」

「待ち伏せされました、お逃げください」

数騎が女王とピダムの周りを囲野盗を近づけぬよう応戦する。

徒でしたがう女官の逃げ惑うのに邪魔されて思うように賊を蹴散らすことができず。
地の利がある賊にジリジリ隊が追い込まれていく。

「ピダム…」

「申し訳ありません」

ピダムは剣を片手に構えもう一方の手で守るようにトンマンを抱いて切りかかる隙を与えぬよう馬を操った。

(陛下を残し馬上を離れるわけにはいかない、今は戦えぬ…だが、このままでは…)

「陛下、私にお掴まりくださいけっしてお手をお離しになられませんよう、一気に此処をぬけます」

「………」

ピーーーーィと高くピダムは指笛を鳴らし

「突破するぞ!脱落するな!」

「ピダム、女官は!?」

ピダムはちらと悲鳴を上げる女たちを見てそして一瞬女王を見、首を僅かに横に振り彼女が何か言いかける前に強く馬の脇腹を蹴った。

ピダムは馬上から薙ぎ払うように剣を奮い活路を開いてゆく。
護衛の騎馬がそれを守り援護しながら追いすがりくる下卑た者共を斬り倒す。
徒の者、拐われ恐らくは惨く蹂躙される者たちの恐怖と絶望の声が後方から響いている。

「ピダム!ピダム!」

止める女王の声を胸で受け止めてピダムは馬を駆る。

日が暮れかけ雪が行く手を阻むように吹き付ける、片手で手綱を操りその腕で同時に女王を守りながらもう一方の手は剣を持ち冷たく降る雪を斬る様に進む。

どのくらい来ただろう

「賊は?」

ピダムが問う

「はい油断はなりませぬが…恐らくは」

そこで護衛の男は少しいい淀み、言葉を続けた。

「我々をを逃す為に残った者と…女が恐らくは奴らの足留めとなりましょう…」

ピダムは何も言わず、ただ頷いた。
トンマンは唇を噛んで今すぐにでも戻り助けて遣りたい気持ちを抑えこんでいた。

と、前方に幾つもの松明と馬の嘶きがした。
ピダムと護衛達の面が再び緊張する。
これ以上の賊のとの交戦は避けたい、が…



現れたのは怪しげな者とも思われぬ一団であった。

その一団の中の長か一騎の馬が進み出てきた。

「何者か!」

ピダムの相手を威圧する声が響いた。

「これは、お出迎えが遅れ申し訳ありません功城県の貴凌と申します」

と言うとその男は下馬し女王とピダムの乗る馬の前に片膝をつき膝まずいた。

「新国の麗しき我女王陛下、臣貴凌にございますお見知りおきを。」

「そなたが貴凌殿君か?ヨンチュン公の御弟君。」

「左様にございます」

「陛下におかれましては悪路さぞお疲れでございましょう輿をご用意しておりますればそちらへお移りください」

面を松明で照らされた貴凌殿君はヨンチュン公というよりは母である知道夫人に似た柔和な微笑みを見せだが眉などキリリとし口角がきゅっと締まっていて優雅なふるまいと隆とした体躯のなかなかの男振りが見てとれた。

「出迎え御苦労でした、…」

女王はじっと貴凌に目をあて

「私の落ち度で今野盗に隊を乱されました計らずも遅れた女官がおりますこれを助けたい助力を頼みます」

「無論にございます陛下」

そう言うと貴凌は“行け!!”とばかりに私兵に合図し馬上の女王の下馬を助くべく手を差し伸べた。

ピダムは貴凌殿君の大胆な振る舞いに怒りを覚え氷が燃えるように彼を睨んだ。

「ピダム公、殿君のせっかくの申し出、ありがたく受けることといたすそなたも付いてまいれ」

そう女王は言い殿君の手を取りヒラリとピダムの手をすり抜けるように馬から降りた。

後はピダムを振り返りもせずトンマンは優雅な設えの輿に乗りそっと眸を閉じた…。



雪はその脚を早め後から後から降り…

サクリ、サクリ、と積もり始めた雪を踏む音と幾つもの松明の灯りだけがが峠を越え進んでゆく…

……今朝、明けの空を飛んだ鳥たちは無事望む地へたどり着いただろうか…

女王、ピダム、そして貴凌のそれぞれの思惑も今はただ静かに振りゆく雪の白さに紛れる夜…


隊は静かに蓴潭渓谷へと入っていった。








*『丹頂』(丹王1)お読み頂きましてありがとうございました。


*蓴潭(スンダム)渓谷
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