新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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俄か雨

SS 愛してはいけないから

『俄か雨』


*******

いつか、過ぎた日…



「公主様此方へ、急に雲行きが怪しくなって来ました。」

「ああ、さっきまで青空であったのに」

「お急ぎください」


公主になって日も浅いトンマンは時おり政務漬けの時間を割いてピダムと出掛けることがある。
トンマンは視察と称しピダムは名目などどうでもよくただ彼女といられることが嬉しかった。
そして今日もいい顔をしないソファを尻目に宮殿をあとにした。
実際ソファは二人が思っている以上にただの公主と花郎ではすまなくなるのでは…と危惧していた。

本来なら公主と花郎まったくの似合いで穏やかに王の姫として幸せになってほしいと願うのだがピダム郎ではダメだ、ピダム郎だけはダメだ!とそれなのにどんどんトンマンはピダムを信頼しピダムにいたってはその公主を見る眸は明らかにただの臣下のそれではない…


「降りだしました、さあ、お早く!」

ピダムはトンマンの手をとって駆け出した。

淡水色と薄紅芙蓉色の衣の美しい貴族の娘とこれまたハッと人目をひくすらりと背の高い花郎らしき男の姿の駆けていく二人をすれ違った幼い兄妹らしき二人が驚いたように見た。
この辺りではそのような高貴な人など滅多に見かけぬからだ。

何処か雨宿りできる場所はとその子らに聞くと吃驚したように立ち止まり少年が向こうの方を指差した。
トンマンが礼を言い貴人に声を掛けられ面食らいながらも礼を言われ嬉しげな彼らもまた家路へ急ぐのであろうぺこんと頭をさげると駆け出していった。

トンマンとピダムが飛び込むように少年に教えられたあばら屋に駆け込むと同時に急に雨脚が激しくなった。

雨のせいか辺りは薄暗い…

「公主様、火をおこします」

「火?」

「幸い雨脚が激しくなる前にたどり着きましたが、それでも少し濡れてしまいました、お寒いですか?」

「ああ…いや」

ピダムに言われ自分の肩から袖がしっとりと濡れているのに気づいた。

ピダムは手慣れた仕草で火をおこし枯草から木切れにたちまち火をつけた。

「さあ、此方へ…」

パチパチとはぜる音に火の粉が舞う…

「空の気は難しいな、今日は雨など降らぬと思うていたのに」

そんなトンマンの少し頬を膨らませた物言いを聞きながらピダムは少し笑った。

「空の気を読むには師匠くらいにならねば。」

「やはり日頃文句ばかり言っていても国仙を敬っておるではないか」

そうトンマンが揶揄すると

「剣の才は俺の方が優れています…が天のご機嫌は師匠に任せています」

とうそぶくピダム。
負けず嫌いのピダムのものいいにトンマンは笑った。
ピダムは口に手をあてるでもない無邪気な笑顔を眩しく見つめた。

「髪が濡れました此方へ」

「自分でやる、貸せ」

ピダムは布を出すふりをしたがトンマンが掴んでも離さず、軽い引っ張りあいになった。
急にピダムが手を弛める。

「あっ」

トンマンが布を掴んだまま倒れそうになりその瞬間ピダムが布を強く引いた。

「ぅわっ…」

トンマンはバランスを崩してピダムの胸に倒れこんだ。

慌てて身を離そうとするがピダムが抱き留めた腕に少し力を入れて

「暴れないで、髪はピダムが乾かしますから」

「………」

トンマンはピダムをその腕の中から見つめピダムの理性をぐらつかせた。
トンマンはピダムの僅かな動揺をみてとり身を離しくるりと後ろ向きになり言った。

「公主の髪だちゃんと乾かせ」

「…はい、公主様承りました。」

照れ隠しのようにわざと強い命令口調のトンマンにピダムは声で微笑む。
そして一房また一房しっとりと美しい黒髪を手にとって包むようにきれで水気を拭き取ってゆく…
見え隠れするうなじに柔らかなおくれれ毛‥

外はうちつけるような雨の音
耳朶の後ろの痣にそっと触れる‥

「………」

(好きです…)

躊躇うような言葉を雨音がかき消す

「?‥何、聞こえない」

ピダムが触れた痣が熱い、だけど‥

「……いえ…」

暫くの沈黙の後

「昔幼い頃…こんな俄か雨のあった日師匠と暮らす家に可愛い赤子が来たことがありました。」


「…それで?」

髪を拭くピダムの手を感じながらトンマンは聞いた。

「その赤子丸くて可愛いかった。私の手をキュッと掴みました…そこには私と師匠とその赤子、それにもう一人誰かいた気がいたしますが…覚えてはおりません…どうしてか雨音のせいか急に随分昔の事を思い出しました。」

「おそらく国仙の知り合いでもあろう」

「……はいただその赤子とはそれきりで今までずっと忘れておりましたが」

幼いピダムが見た赤子の痣と公主にある同じ痣が遠い記憶を呼び起こしたことを彼は気づかぬ。

「可愛いかったか?」

「はい」

「すごく?」

「はい」

「ふーーん」

「……つきたての餅くらい可愛いかったです」

その応えにトンマンは声を立てて笑った。
振り返り肩越しにピダムを見るトンマンの眸は何故か無垢なあの赤子に似ている気がした。

「少し公主様に似ています」

「赤子とか!?」

「はい」

赤子と同じにされたトンマンは少し頬をプリっとした。

「ほら、やっぱり餅みたいにプリっとしています」

彼女の頬にピダムは指先で触れながら言った。

なんだか少し癪にさわったからトンっと勢いをつけてピダムの胸に凭れかった、そしてあっという間に身を離して立ち上がり戸口に立って振り返り

「もうすぐ雨があがる」

ピダムも立ちトンマンの傍らで雨雲の間から射す光を見ていた…



「どうしたピダム…?」

書簡から目を上げ傍らで書簡を閉じて此方をみている男に女王が訊ねた。

「いえ…ただ、俄か雨でしょうか先程よりふりだしたようにございます」

(雨音は過ぎた日を思い出させる…)

「ああ…」

「雨は降り止んでなお大地の底を流れ続けます。」

ピダムは立ち上がり女王の側により書簡を閉じさせた。

「‥それは油断がならぬな」

「はい」

「少しお休みください」

「……」

ピダムは女王の頬に微かに触れるような口づけを素早く落とした。

「雨もお前も油断ならぬな」

そういって女王は一瞬トンマンの顔で微笑んだ。



俄か雨、ぽつりぽつり…
だが、それはたちまち辺りを滲ませ山をかきけす…
そしてその雨はやがて大河へ流れ大海へとそそぐ…




ピダムの想いも雨の如く激しく降り注ぎ…そしていつか愛する女の胸に沁みていくだろうか…










*『俄か雨』お読み頂きましてありがとうございました。








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