新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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春焔 初春彩景

SS 愛してはいけないから


『春焔 初春彩景』


*******


庭の竹を渡る風が客間に凛とした風を運んでいる。
それを花が見あたらぬのは残念とばかりに眺めながら

「ピダム公、春の聲は何れで聴かれるとお思いになりますか」

「………」

(今度はなにを言い出すやら…)

ピダムは新春の朝邸に押し掛けて来た、いや挨拶にフラりと寄ったミセンを目の前に謎なぞのような言葉を繰り出され困っていた。
新年そうそう無下に追い返すことも些か憚られ邸に上げたはいいが扇をもてあそびながらのこの質問だ。

「ご存知ございませぬか?」

「…………」

「うーーんご存知ないとは、いやはや当代きっての男振りとの噂の高い貴方が…」

(何が言いたいのか、またく陛下へのご挨拶も此からというのに‥早くしろ!というか早く帰れ!!)

「ミセン公、新年の挨拶にとのことでいらしたようでしたが、春の聲とは…私はこれから宮殿へ参らねばなりませんので、手短に。」

「宮殿へ!?今朝は臣下の陛下へのご挨拶はないはずですが?」

少しだけニヤニヤ顔のわざととぼけた顔を扇で半分覆い目だけ出してピダムにミセンはそう言った。

「…私は司量部令です」

「……で?」

「正月といえど職務を休む訳には参りません。」

「ほぉ、これはお流石真に忠義心の厚いこと陛下もそれはさぞやお喜びでございましょうなぁ」

などどもっともらしく言いながら視線はヘラヘラしている。

「ミセン公先程も申しましたが…」

そのその言葉を遮るようにミセンは

「ピダム公ばかり陛下のおぼえめでたいのも妬けますね、どれ私もお供して日頃の忠義心をお分かり頂くといたしましょう」

ピダムはその言葉に正月に相応しくないほどの怒りを覚えた

「そうですか、ならばご一緒に、きっとミセン公がどちらを回られて宮殿へたどり着かれたのか陛下にご報告申し上げねば、春の聲とやらもさぞたくさんお聴きのことでしょうから」

(ピダム…分かっているじゃないか人の悪いヤツだ)

「………‥」

「ご一緒に宮殿へ参られますか?」

「うーーん存外いや、やはり貴方は意地が悪いですな」

「で?」

「陛下に宜しくお伝えください」

「ミセン公は更なる春の聲を聴きに行かれたと伝えましょう」

そしてピダムは話しは終ったとばかりに席をたった。


「やれやれピダム公の春の聲は宮殿で聞かれるとみえますな」

そんなミセンの独り言を聞くのはピダムの邸に珍しく飾られている松木の青々とした枝のみであった。



女王は元旦の朝参は受けるがその後二と三日は行事は無くその翌日から七日間新春を迎える行事が続く。
つまり年に一度の静かな日、というわけだ。

そんな静かな朝女王は薄紅の衣、髪はおろし金で美しく組まれた紐でそれをゆったりと束ね薄くほどこされた化粧が彼女の若さを際立たせていた。

(今日は誰も来ない…
誰も来ないはず。)

女官も控え一人私室の鏡に向かいそれでよいはずのことを不思議なほど心で繰り返している。



ピダムがやっとミセンを帰し身支度を整え直し私邸を出ようとしたところへ

「ピダム公、新年の賀を申し述べに参りました是非我が屋敷へお招きせよと父から申し付かりました」

とモジョンが門前に立っていたものだからピダムの眉をはヒクヒクとつり上がった。

「これはこれは…しかし折角だが見ての通り出掛けるところだ」

「なるほど…しかし今日は宮殿にも出仕の必要もないはず…で、どちらへ?…まさか!?」

「……まさかとは?」

(まさか、なんだというのだ!?)

「女人のところですか?」

(ハジョン公の息子にしては鋭いな)

「………」

「やはりやはり…こんな時しかありませんからね、確かに」

「何が言いたいか知らぬが先を急ぐ」

「いや暫くお待ちを、しかしピダム公その女人果たして公をお待ちでしょうか、時には冷たく離すことも大事ですお忙しいでしょうから今日こそはと思い急がれるお気持ちもわかりますが…焦らすことこそ肝心ですから今宵は当家へお出でになられては?」

「……焦らすとは?」

「ピダム公は存外初でいらっしゃるこれは是非是非わが妹を紹介させてください」

「……私は女など興味はない!」

「え!?公はそちらでしたか!!」

いい加減にしろ、とばかりにピダムが睨みつけると

「いやいや…うんこれはこれは確かにたしなみの一つではありますがそうでしたか…公が断袖とは、分かりました父には内緒にしておきま…」

最後の言葉を彼が言い終わらぬうちに我慢の限界が来たピダムが走りだしたものだからモジョンはつきとばされたようになり尻餅をついた。

「あんなに急いで…ピダム公がお相手は何れの美童やこれは重大情報~」

と腰と顎を擦りながらモジョンはほくそ笑んだ。



(どいつもこいつも正月浮かれか!?まったく腹立たしいあれ以上付き合っていたら怒りのあまり殺ってしまうとこだった…まったく…)

ピダムは驚くべき早さで正月の賑わいの市井の、老いも若きもうち揃い新しい年をことほいでいる。
そんな人混みさえ今のピダムには関係ない。

(朝一番に御伺いするはずであったのにあの忌々しいやつらのせいで)

その人混みから

「ピダム……ピダム公」

そう不意に呼ばれた。
今度は誰なんだ!?
と嫌々彼は振り返った。
そこには酒に酔ったチュクパンとコドそれにサンタクがいた。
瓶子を揺すりながらチュクパンが近づいてくる。サンタクも顔を赤らめて酒気このうえもない、コドが二人の袖を引くがお構い無しだ。
イライラしながらピダムは足を止めた。

「何か用か?」

「どちらへおいでで?」

えへへ知ってるぞーというような顔でチュクパンが尋ねる。

「城だが、なんだ」

「今日は参上にはおよばずじゃありませんでしたか?今日はアルチョン公御一人で十分なはずですが…」

「アルチョンは城なのか!?」

「まぁそりゃー侍衛府令様ですからなんたって陛下の一のお気に入りですし」

へっへっへ…と酔った勢いで怖いもの知らずのようにチュクパンが絡む。

(アルチョンの奴クソッ!)

「今頃水入らずでお過ごしでしょうなぁー」

サンタクはピダムとチュクパンの顔をヘラヘラ見て笑っている。

ギラリとピダムの眼がチュクパンを見て次の瞬間ピダムの剣の鞘がドンとチュクパンの鳩尾に入りそのままチュクパンは道にひっくり返り気を失いサンタクはピダムにギラリとした抜き身の剣を突き付けられ

「二度と俺の前で笑うな!」

と凄まれ酔いが醒め口をパクパクさせていた。
フンッというようにピダムは二人を睨めつけコドに

「連れていけ!」

と低く怒りのこもった声で命じた。
コドはカクカクと頷き声もない。
足が硬直したまま逃げ出しそびれた哀れなコドはピダムの眼光にまた石になったように動けずにいた。
そのままあっという間に去っていったピダムをただ見送ったのだ。

(ピダム公ーあのぉーあのぉー、今日はアルチョン様もお屋敷ですよー水入らずは兄貴のイタズラですからー)

そんなコドの心の声は当然ピダムに聞こえるはずもなかった。



瑞祥の気に満ちた穏やかな時であるはずなのに女王の心は瑞祥とは反対方向へ向かい始めていた。

「侍衛府令はいつも此方につめていて年始めくらいは私邸にいるそれは当然だ…うん…ユシン公も既に妻帯しておるのだからこんな時くらいしか妻孝行も出来まい…チュンチュは大人しく屋敷にいるとも思えぬがどこぞで浮かれておるのであろう」

(………が独身で酒もそれほど好まぬ男が何処に行くというのか?私邸でのんびりか?いやいくらなんでも年始めにいい年をした男が一人膝を抱えているということもなかろう…)

トンマンはきっとピダムが来ると思って用意しておいた金の酒器を傾けた。
コクンっ…

「冷たいな…」

酒が喉を滑るように落ちていく。
呟いた言葉が何だか来ない男への恨みのようにも聞こえる…

女王はまた杯を重ねる。

「ゆっくりしろとは言ったが一人でゆっくりしろなんて言ってないんだからな…」

「まさか、正月気分で鶏肉でも食べ過ぎて腹でもこわしたか!?」

「まさかな…いや無いとはいえない」

また女王は杯をあおる。

「いつかピダムの屋敷へいったが…人気はあまりなかったな…正月もボーッとあそこに一人か?」

と幾つもの呟きと酒器が軽くなった頃

「陛下…陛下」

(……ピダムぅ?)

「またく女官一人も御付き参らせぬとは、陛下…ピダムでございます」

「ピダムぅ?」

ぼんやりと目を開け碧翡翠の衣のピダムを見留め。

「お前無礼だぞ遅参だ」

「申し訳ありません」

今日は参内無用ではなどとは言わない。

「アルチョンは?」

「知らない…屋敷であろう?」

「…………」

(チュクパンの奴!!)

「然しいくらなんでも誰もお側に警護がおらぬのでは」

「宮殿は交代で兵が守っておるから心配ない」

「いや、そうではなく」

「私のことか?…そうだな…今年からはいつも側に置いておかないとな遅参する剣ではいささか困るからな」

目元をほんのり紅梅に染め臥せった顔を上げ彼を見る。

「陛下…」

ピダムが見つめたトンマンの眸にピダム一人が映っている。
その眸は春の焔のように萌えて彼の眸に焔を移す。



初春の景色は様々…

春の聲を探す者…
寿ほぎついでに幻の袖を握る者…
気絶しながら初夢を見る者…


そして…
春の焔に染まる者。





*『春焔 初春彩景』お読み頂きましてありがとうございます。

ソラボルのとある一角の正月風景を描いてみました。




「今年も皆様にとって佳い年でありますように」

新月のうさこ
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