新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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葦の葉笛

今回はリクエスト第二弾、暁様よりのリクエスト頂きました“ムンノとピダムのお話”となっております。




SS 愛してはいけないから

『葦の葉笛』

夏の川風がピダムの頬を掠めて通り過ぎる。

寝転がって瞼を閉じて彼はただ草むらで足を組みじっとしていた。

鳥が鳴き遠い空へ羽音と共に飛び去って行く。

(チッ、だらしねぇな…)

人より聴覚のすぐれたピダムは何かを聞き付け片足は伸ばしたままもう片方だけを膝立てにして身を起こした。
バタバタッと足音がしたとおもったら

「兄貴ぃ」

情けない声でピダムより数段ガタイはいいが人のよさそうな男ドンイルとちょっと小狡そうなやせっぽちの少年スクチが必至に此方へ逃げてくる後を数人のごろつきが追ってくる。

「まてコラ」

野太い声がしてたちまちピダム達を囲む。

「兄貴、奴等難癖つけやがるんだ」

「そうだよぉ俺達ちゃんと兄貴に言われた通りの薬草捕ってもってったのに」

ドンイルが言う

「なに言いやがるこんなクズだらけの草なにが薬草だ!」

ピダムはごろつきに投げつけられた薬草を拾い眺めてちょっと笑った。

「確かにちったぁ草っぱ混じりだが確かに薬草だぜ」

「兄貴そいつら薬草渡したのに銭寄越さねーんだ」

またドンイルが言う

「だからちょいと銭函からいただいたらよ、見つかっちまって」

被せるようにスクチもいつでも逃げが打てるように後退りしながらピダムを見て言う

「………で銭は?」

ちょっと方頬で笑いながらそう言うピダムにスクチが懐からピダムに向かって巾着一つ放り投げる。
にっと笑ってピダムが飛んで空で受けとり

「まぁまぁだな…」

と鼻を擦りながら呟くが早いかならず者たちが襲いかかってくる。

洗い晒しの僧侶の着古しのような着物を纏うピダムは首に巻いていた茶色の布切れをさっと外し簡易の梢子棍に見立てて肩から腰へシュッ、またシュッっと目にも留まらぬ早さで振る。足をジリジリと進めながら相手の動きを見極めていた

「なめた真似しやがって二度とふざけた真似出来ねーようにしてやる!」

そう言いながら棒切れを振りかざしてその中の片頬に傷のあるやつがピダムめがけて襲いかかってくる。

にやっと笑ったピダムは地を蹴って高く跳躍し回転しながら相手の頭上を飛び越えた。

そして梢子棍代わりの布切れで次に来た奴の合い口をピシッと叩き落とし長い足で後ろから来た奴の鳩尾を蹴る次の瞬間合い口を落とされよろけた相手の胸に拳がドンッと鈍い音をたてて命中する。
また次の奴が左右から来るが飛び上がり両の足の蹴りで仕留める。
次々にピダムに倒されのされてゆく。
ごろつきの中にも目端のきく者はいたのかそのピダムの一筋縄ではいかないいやそれどころではないと悟ったとみえ

「覚えてやがれ今日はここまでにしといてやる…」

そう定番の捨て台詞を残して唾を吐き出して逃げ出す奴等を眺めて置いていった薬草の袋をピダムはひょいと拾い上げる。

子分のようにつきまとうスクチとドンイルに鐚銭を一、二枚やって追い払う。

「チッ、細辛だけきっちり持っていきやがった」

そう呟き口の端を歪めて薬草袋を肩にかけ歩き始めた。
そして梢子棍代わりにした布切れを元のように首に巻きつけようとして胸に当たった手が懐のものにふとふれた。
ゴソゴソピダムはそれを取り出して口にあてた。

それは葦の葉笛…

その笛の音に共鳴するように涼やかな風が吹き付け草がそよいだ、その音はまるで鳥の声。

ピダムは暮れかけていく澄んだ青空に茜の混じった空をみあげた。



ヤンジ村は夜も各所で火が焚かれ口に麻や木綿の巾をつけた者達が病人や死人を運んで行く。

そんな村の一角で…

「これでは予防にはなっても治療にはならない!」

怒り苦々しく死にゆく病人を目の前にムンノは激しくビダムを叱った。

「細辛は採りつくされていてありません」

そう言ってはみたが師匠であるムンノは

「それでも見つけてくるのだ!」

と治療の手を休めず言う。
このヤンジ村で彼らは暮らしていた。
師匠が思い付けば旅にでてまた師匠が思い付けば暫くそこへ逗留する。
博識で学があり医術や占術の知識もあり武術も優れていながら清貧な彼の師匠はゆく先々で敬われ慕われた。
この村でもそれは例外ではなくこのように疫病の蔓延する村に残り療治に力をつくすムンノを村人は神のようにさえ思っていた。
だがピダムはそれをつまらぬことと思う。
何のための人助けか。
死にゆく者のを助けてそれがどうだというのだ。

ムンノはチラリとピダムの頬のまだ新しい傷に目をとめ怒りとピダムにはわからぬ悲しみの眸で彼を見た。

(どうしてお前はそうなのだ、従うのだ、ただ従うのだその中からしか見いだせないものがあることに何故気づかぬ)

この村に来る前幼いころよりこの新羅の隅々まで歩き人々を見街道という街道を歩き遠く百済までいったこともある幼いピダムには過酷ともいえる旅であった。
それでもあの日々はピダムにとって暖かなものであったと今でも不意に思い出すことはある…がそれはあの出来事を思い出すことにも繋がるのであった。
本当の親のように思っていた師匠が何も自分のことを分かってはくれないそれと同時にピダム自身も師匠の思いは分かることが出来ないということを知った最初の出来事。

過酷な旅は全て自分のピダムを思うゆえと知った時、訳などわからぬが師匠の大きな期待が自分にあるのだと感じた。
誰からか必要とされる喜び誰かに期待される晴れがましさその温もりがピダムには嬉しかった。
その証しが師匠がお前のものだと言ってくれた三韓地勢それであった。
だからあれはピダムの心の確かな喜びであった。
そして暖かな温もりの証しでもあった。
だからこそ幼いピダムからそれを騙し奪った奴等はピダムにとって虫けら以下でああして悪いなどとは一つも思わなかった。

皆殺し…

とっても大切な物だから取り返したんだ。
ついでに悪い奴等をみーんなやっつけた。

だがムンノは激しくビダムを叱りその時からそれまで一身に浴びていた必要とされる喜び期待されるくすぐったいような嬉しさが消えた。
激しく怒り涙で叱りつけられた…そして冷たさと厳しさだけが残った。

剣術をはじめ武術の腕はピダムは天分の才を持っていた。
ムンノにはそれがかえって皮肉なことのようにも思える、が彼もまたピダムと関わる術を剣以外に持たなかった。
剣を教えれば土が水を吸うようにたちまちそれを自分のものとする。
教えることを絶っていてさえ彼はムンノの業を見て得とくする。

ピダム、王の印しをその額に受けながら野に打ち捨てられた者…
だが一度見捨てられた星は容易くは空へ還ることは出来ぬ…

ピダムお前は星の定めを承けねばならぬ…だがお前はあまりに幼いお前はお前の持つ愚かな残酷さに気づかぬ。
星々はそれ故星官よりお前を落としたか…

私はそれと知らず生きるお前の額の目に見えぬ印しを憐れむ

ムンノの耳にピダムの吹く葦の葉笛の音が遠くで聞こえていた。

その音は疫病の村にそぐわぬ美しい響きであった。



空はは果てなく青く続いているピダムは草揺れる野に今日も変わらず身を置きながら葦の葉笛を吹いていた。

俺は逸か誰かを見つけることができるだろうか…

大切だったから奪われたくなかった、ただそれだけ、ただそれだけだった。

奪われまいと思いそれゆえ無くしてしまったもの…

おれはまた逸か見つけることが出きるのかな…

今日も野山を見つけることの出来ぬ何かを探すようにただ駆けて行くだけ…

その時不意に争うような声が聞こえてきた。
ピダムは思わず駆け出した。

その丘を越えたところに運命が待つとも知らず…

それはピダムの運命を導く者との出会いであった。



女王の寝所に許可なく出入りを許されたたった一人の存在上大等ピダム…

悪戯っぽく懐から笛を出すピダムに女王は好奇心にかられたようにワクワクした顔で訊く。

「ピダム、その笛は?」

「これは昔師匠から貰ったものです。」

(国仙から…)

「異国の僧侶から貰ったものらしいのですが鳥の声を模した葦の葉笛はだそうにございます。
“天之鳥笛”と呼ばれるものと聞き及びます。」

ピダムがその笛を口にあて吹き始めた
それはまるで真に鳥の声…
風の音を川のせせらぎをこの仁康殿の奥に運んで来た。

「天之鳥笛か…まさしくな」

トンマンはそう言いピダムの胸に凭れ安心したようなそれでいて何処か儚い微笑みを浮かべた。

「師匠は私にいろいろなものを教えてくれました、これは随分昔百済へ旅したとき倭人よりもらったもので…何一つ師匠の形見といえるものなどございませんが、この笛は唯一昔のままこのピダムの元にあります。」

葦の葉笛はピダムに計らずも遠い昔の記憶を思い起こさせた…


あの必死で取り返した三韓地勢さえ要らぬ…
ただ一人の真に求める者を腕に抱いた今は。


葦の葉笛の調べに乗せ天の摂理が導く先を微笑み合う二人は知らない…











*『葦の葉笛』お読み頂きましてありがとうございました。

このお話しうさこなりのピダムとムンノを書いてみました。
この題材はまだまだ深く書けるような誘惑もありますが、それはまた何れ後のこと…
暁様リクエストありがとうございました。


*梢子棍はヌンチャクのようなものです、ただ両方の長さは同じではなくより機能的なもの。

*鐚銭(ビタセン)のことはこの時代なんといったかわかりませんでしたので鐚銭と書いております。

*葦の葉笛が天之鳥笛という訳でもないのですが二つの音が好きなので組み合わせました(笑)
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