新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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従順なる背信…①

SS 愛してはいけないから


『従順なる背信』…①


*******


闇に追い付かれぬよう…
見失いそうになる思いに手を伸ばす。
権力より王座より欲するはたった一つの地上の星の煌めき…



卓上に肘をつき指を頬に当てるようにしてピダムは自分の心を辿るように瞑目していた。

(ユシンの取り調べ…貴女は許可するだろうか…
それともどうあっても奴を庇うだろうかと不安は無かったとは言えない、だがウォルヤには感謝するべきかな‥復耶会の存在を奴の逃亡が完全に裏づけた)

ピダムは自らの水も漏らさぬ策略、復耶会を暴き此を利用する考えが長年の調べを元に確実に実行されていくのを見ながら思う。

(追い詰めるだけ…伽耶を復耶会をユシンをそして陛下、貴女を…)

「ウォルヤの願っていることをこの私も願っているということだ」

そう語るピダムをヨムジョンは彼の企みの隙のなさと確実さにゾクリと舌巻きながら僅かに笑い彼を見た。


ピダムの進言をのみ女王は上将軍ユシン公の尋問を司量部に許可した。

だが取り調べを受けるユシンを女王が訪れるという、反逆の疑いがかけられている者に直々に会いに出向くしかもピダム抜きで…そのことに司量部の者たちは驚いたが相手が女王なのだから面会させぬわけにはいかない。
ピダムは報告を受け驚き急ぎその意を知るため仁康殿に向かった…

(何故いらしたのですピダムにお任せになったはず)

そして

「ユシンは潔白だ…私が苦しんでいることを…それに彼が気づかないのが悲しくて…私の気持ちに気づかないユシンが恨めしくなる…」

ピダムはこうなってさえまだユシンを信じユシンを庇おうとする女王を目の当たりににし自分の中の渦巻く怒りと悲しみがより苛烈になるのを感じた。

ピダムの顔は苦しげに歪むそれは出口の無い悲しみと怒りの塊が彼の中のを突き上げているから。

トンマンは知らない自分がピダムだけにみせる素の想いがピダムを苦しめることを。

(ユシン公伽耶であるまえに新羅のそなたであってほしい新羅を捨てるな…私はユシン公を捨てたくない)

そんなトンマンの心がピダムの胸を貫く。

(ユシン、ユシン、ユシン!いつもいつも、いつまでたってもあなたは心にユシンを想っている、だがユシンは貴女の為にカヤを捨てないそれをわからせてさしあげます。)

女王の執務室にはす向かいに座りながらその距離はひどく遠いものに思えた。

(追い詰めて追い詰めて陛下貴女を追い詰めて…貴女は私を撰ぶきっとそうしてみせます。)



ピダムの意思は彼の勢力は貴族をまとめあげ女王の命令を左右するほど今や力をもっている。

トンマンは自分と同じ道を行くために側にいて新羅の為に別れた、側にいながら別れたユシンを思う。伽耶と新羅、ユシンと自分はやはり一つにはなれないのか。
そしてピダムは何故こうも…破れない策で私に向かって来るのか。
私はユシンの真心を信じる。

それは側近の心を信じることだから。

だがそれなら伽耶を許しユシンのみを頼みピダムを離せるのか?

否、それは出来ない伽耶を受け入れても復耶会を伽耶の王を望む者達の存在は許さない、そしてピダム……


彼が有能だからか離せない?…いや、それだけではないだが‥それはただの一人の女の心だと分かっている…
それゆえ、ピダムを離せないから夜を重ねていてさえ距離を保たねばならない

“愛してはいけないから”

私はユシンの真心を信じることを迷わないけれどピダムお前の心を愛をを信じることを迷う…お前を想う時私の目が全てを曇らせぬよう。

ユシンは身をかえりみず真心を差し出し再び帰ったそのことが女王に彼を反逆者として布告させることを止めさせ兵部の者をを安心させた。
だが…ピダムはそのユシンの女王に向ける真心を恨む…
唯一無二の自分にとってただ一人の女に向ける真心を憎む。



女王はユシンを流罪にする苦しみの時楼台に一人…

アルチョンの思いは女王には彼以上の思いで解りすぎているユシンをこのままにするなと、チュクパンの親しく彼女を思う言葉が染みる…

「こんな時乳母殿がいたら…意地を張らずユシン公を求めては…」と

「…………」

「ありがとう…兄貴は何処にも行かないでください」

(チュクパン兄貴…でもそれはできないあのときからユシン公とは道は寄り添うようでいて決して交わらないと…)

(こんな時…私は一人だピダム…側にいてくれ、そう言えたら…)



ピダムの人事を退け受け入れぬばかりか、彼を事実上の降格扱いにした女王を彼は女王の私室まで追いかけてきた。
ただの臣下ならそれは有り得ぬ行為。


「ユシンがいなければ私もお側にいられないのですか?」


(ピダム…私を追い込むな…お前の胸に抱かれ続けているそれではダメか?…)

「私にも感情はある誰かを頼りにし慰められたい…称賛されて生きて行きたい、だがいけない」

(誰かじゃない…それはお前だそう言えたら…)

「何故いけないのですか?」

(何故いけない?何故俺を素直に求めない?…)

「王だから、三韓一統これのみに生きるべきだから」

(ピダム…これ以上はだめだ…)

「………」

心が躰が、その互いを求める想いが離れられないのに許されぬ…


思わず引き寄せ抱き締めた手は彼女の思いを抱き寄せることは出来ず虚しく遠のく、ピダムの端正な横顔が伝わらない思いの行き場のない悲しみで歪む…

「ピダム、私に選ばせるな…」

(これ以上私にお前を選ばせるな、お前は気づかないのか?お前だけを求めそうになるのを必死でこらえる私の心を…)

強く奪うように抱き締められ思わず彼の背に頼りたくなる
それをこらえるすがれない手がむなしく項垂れるように下がっていく…

「愛とは相手の全てを所有することです」

「王は誰のものにもならない、なってはいけないのだピダム」

(私の全てを求めるな、私にお前を選ばすな…)

ピダムはこれ以上拒まれることに耐えきれぬよう漆黒の衣を翻し女王の私室を出ていった。




(くそっ!!)

「うぅ!」

声にならない唸り声をあげ両の拳を叩きつける。

(陛下を想う心を何故受け入れてくださらない!
王だから?王…それがなんだ!)


ピダムは仁康殿を振り返ったまるでそれは彼の全ての思いを拒むように閉ざされ、彼は受け入れられず満たされぬ突き上がるほどの女王へトンマンへと向かう思いに身を焦がしていた…

“何故愛してはいけないのか”

愛することが貴女の意思に背くとしても俺は愛さずにいられない!!



背信と真心そのどちらがより愛なのか…




運命はまだその答えを秘したまま‥時はその答えを暴くために幾多の命をのみこもうとしていた。







*『従順なる背信』…①

お読み頂きましてありがとうございます。

今回はドラマ仕立てでお届けします。

うさこのテーマ“愛してはいけないから”についてうさこ自身もう一度考えてみたいな…と思いこの辺り(53話~)を切り取ってみました。

もしかしたら追記修正する可能性もありますご容赦ください。

ぺこりん…
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丹頂(終の栖)

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丹頂(丹王2)

SS 愛してはいけないから

『丹頂』(丹王2)

*******


渓谷に建つ趣味のよい美しい様式の屋敷の中のこのような場所にあるとも思えぬほどの品のよい設えの部屋で湯を使い寛ぎ調えられた卓の上の夕げを前にしていた、
碗に餅米の梨粥、芳しい小粒の金柑が磁器の皿に山盛り
になり棗の蜜漬や色々な豆をつかった汁物、蒸し焼きの魚や鳥と野菜の煮物などが並んでいる。

“お疲れでございましょうご挨拶の続きなどいたしたきところですが…今夜はゆっくりとお休みになられて、明日にでもまたこの辺りをご案内いたしたくぞんじます。”

と、先程の貴凌の口上を思い出しながら甘く温かい粥を女王は口に運んだ。

“梨粥は喉を潤します、田舎の味でございますがなかなかの美味、用意させましたゆえどうぞごゆるりと御賞味ください”

(たしかに豊潤でいて爽やかな甘味が疲れた喉に心地よい。)

あのとき殿君を前に一瞬彼に垣間見せた涙で僅かに腫れた眸と掠れた声ピダムに凭れていた姿は男の心をドクンッと波打たせ次にひたと彼をみつめてきた真っ直ぐに射抜くような堂々とした眸の耀きが彼をまたときめかせたことをトンマンは知らない。

(ピダムあの時あれが最上の策であったか?ああして切り抜けることが…)

女王はそう思い返しながら置いてきた者の顔を思った。

あれからピダムは一度汚れを落とし身支度を整えて顔を見せたが殆ど会話もなく…

「この都度のこと一重にピダムが落ち度申し訳ございません」

「…………」

「陛下」

「今宵はそなたも疲れたであろう、女官のことは殿君に任せよ…不審の必要はない、下がって休むがよい」

「………はい」

そう言ってピダムは別部屋へ下がっていった。

ピダムはあてがわれた室に戻り寝台に座り込んだまま身を横たえることなくただじっと暗闇の中に何かを探すように動かずに、いた。



翌朝、殿君の用意した蜜色に金糸で鳳凰を刺繍した透けるような衣その下から光沢のある翠色の衣、靴は白くやはり金糸で縁を巻いて花飾りがついている。
耳を飾る宝珠は目ずらしやかな七宝に翡翠と紅珊瑚がついている。

ピダムは女王の傍らに立ち身彼女が支度を整えるのを助けながら見つめていた。

それらを纏った女王は美しくその美貌をいやがうえにも耀きますようであった。

(これほどとは…この無視できぬほどの財力…それにあの時現れた頃合いといい…殿君の目的は!?)

そう鏡をみながらトンマンとピダムは互いにその鏡の中の眸で見つめあった。

その時扉が開くのを見てピダムは振り返った。

「陛下…取り次ぎも待たずご無礼をお許しください…!これはピダム公もお出ででしたか」

「貴凌殿、かまいませぬ」

貴凌は振り返った女王の当代随一の画人でも描けまい美しさに感嘆とも溜め息ともつかぬ声を思わずもらした…

「いかがした?」

「いえ、…いえあまりにお美しく不覚にも言葉を失いました」

(これは、欲しい…女王でなくとも欲しいが…女王か女王、尚欲しい)

「殿君は世辞が上手だ…ところで何か?」

「おおこれはご無礼を、昨夜はぐれたお供の方々お連れ申しました…」

「皆、無事であったか?」

「……申し訳ございませぬ我が兵が参ります間、賊と剣を交えられ負傷なされた方が数名おられます」

「女官は?」

「無事との報告を受けておりますが?」

「………いや…世話になりました」

「とことで陛下是非ともご案内致したきところがございますが、大変珍しきものにございます」

「ほぉー…」



雪深い渓谷の豊かな川とおぼしきところから湯上がり水鳥達が戯れている。

遠いどこからか飛来してくる美しい鳥が雪原に降り立ちこの凍らぬ水辺に憩う。

「これは、美しい」

「陛下、お気に召していただけましたか?」

「ああ…」

「どうぞいつまでもご逗留下さい」

「……」

「陛下」

ピダムは殿君の言葉に眦を上げた。

「殿君はなかなか面白き御方…しかもどうやら商才もおありのようだ…逗留したら何をくれますか?」

「絹も玉もガラスも…」

「ほぉー…金や鋼もくれますか?」

「陛下がお望みなら」

(代わりに望むものは副君の座か?それとも…)

「私が望むなら、何でもくれる…か…」

ピダムは貴凌とトンマンのやり取りを聞きながら

(臣下が王に何でもくれてやるとはな…片腹痛い)

そう思った。

「この新羅は全て陛下のものにございますれば」

「なるほど…」


ピダムは無言のまま思う

(女王に密貿易の後ろ楯になれと?殿君、大胆で強かで知恵もある企みを実行に移せるほど…だが、させるか!)

「貴凌殿のお気持ちは分かりました…どうやら殿君は鄙びた場所よりより華やかな場所がお望みと見えるが?」

「陛下!」

遮るようにピダムが思わず声をだした。

「ピダムもそう思うであろう?殿君は唐の大人とも親しい」

「…………」

「ところで殿君こちらに役人は必要ですか?手助けが必要なら気のきいたものを寄越します」

「………役人ですか?」

「‥そう役人、ここには仕事がたくさんありそうだから」

「……これは貴凌参りました」

殿君は女王の言葉による斬り込みを受け思わず笑った。

女王は中央の椅子と引き換えに唐のへの貿易の手段やその人脈を渡せと…さもなくば役人を送り込み暴き罪状をつけると言う。

(たしかに中央の椅子…王妃の子でありながら王の子でない私には魅力が無いとは言えぬな…巨大な富みと引き換えにする価値があるか…さすればこの美貌にも知謀にも恵まれた女王にも手が届く…)

「殿君、私は此処が気に入りました…ですが私の治める場所は広い…見るべき物は見た明後日立つといたします…先程の私の申し出忘れるでない」

女王は晴れやかに微笑んだ。

ピダムはじっと不愉快さを隠しきれぬ眸で殿君を睨み。
ピダムの視線に貴凌は挑戦的な眸を向けた。



夜も更け一本の蝋燭だけが密やかに揺れる…

「ピダム、殿君は明日唐との取り引きでここを空けます、その隙をつきここを立ちます、長居は無用だ」

「御意」

「王統の地でありながらここは余りに危険だ」

「また野盗を使ってこぬともかぎりませぬからでございますね」

顔を見合わせて二人は笑った。

「女官は今夜中に逃せ」

「はい」

「夜明け前私とお前で脱出する。方法は任せる」

「………」

「どうした、ピダム」

「………」

「ここには美しい…私の新羅だ、王の手にするべき地だとは思わぬか?」

「欲しいのはこの地で貴凌殿では無いとピダムにおっしゃって下さい」

「ピダム…」

女王は困ったように真剣な顔で駄々をこねるピダムを見、このような時にごねるピダムに意地悪がしたくなり

「殿君も欲しいといったら?」

そう言った。

「陛下!!」

「ピダム、怒るな…」

「ならば怒らせないでください」

怒り震えるようにそっぽをむくピダムにトンマンは彼の腕を掴まえ引っ張るようにしてその胸に飛び込み眸を見つめ両手で頬を挟み引き寄せるように口づけた。

「くっ…ぁ陛下…」

女王はピダムの下唇を咬むように吸うよいに食む…
ピダムが理性を手放しそうになった瞬間彼女は唇を離して

「怒りは静まったか?」

「………はい」

「ならば手配りいたせ」

「はい」

ピダムは脱出へむけて動き出すため部屋を出ていこうとして急ぎ女王の元へ大股でもどり

「続きはピダムがいたします」

そう彼女の耳元で囁き扉を後にした。



取り引きを前に此方への警戒が僅かに緩んだその隙にピダムは眠り薬を使い一太刀浴びせたい気持ちを押さえ女王の命通り流血することなく裏をかき脱出した。


駿馬に乗り雪原をトンマンとピダムが駆け抜けて行く…


殿君は臍を噛んだ…
やられた!

大きな取り引きを捨て女王を追うことは今は出来ぬ。逃げられたと知った時これほど我があの女王に心惹かれていたかと思いしらされた様で怒りは吹き上がる程であった。

(陛下、ピダム公をそれほど頼みになさるか、私の手より公の手をお取りになったか!)

馬が駆け雪が舞い上がる。

「ピダムしてやったな」

「陛下のご命令通りに行ったまでにございます」


丹頂が羽を舞うように広げている、その一羽の鶴にもう一羽が寄り添いさらに大きく翼を広げる。

「美しいな…ピダム」

「鳥達の王にございます」

「王か…」

雪原を蹴り一気に二羽丹頂は空へ舞い上がった。

「おお‥」

感嘆の溜め息が二人の唇から漏れた。

飛び立った丹頂を見つめて馬上でトンマンはピダムに甘える様に彼の頸に腕を回して

「ピダム、帰るぞ」

そう言った。

ピダムは驚き次の瞬間破顔しギュット女王を抱き締めた。

「陛下…」

「先発した護衛兵たちが待ちくたびれるぞ‥」

いつまでも自分を離さぬピダムに笑いそういったが言葉はピダムの唇に塞がれ続かなかった。

甘く…溶けては消える雪の中の二人はまるで二羽の丹頂の様に睦ましく冷たく清んだ青空に羽ばたくように帰路への旅路を急いだ。







……で、続きます。


*『丹頂』…(丹王2)お読み頂きましてありがとうございます。


ちょっと長めだったかも?
次で丹頂はラストの予定です。

ピダム…どうするかな?(笑)








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夜と夜のしじま


SS 愛してはいけないから

『夜と夜のしじま』


*******


ざわめきも消えて…
静寂のなかに幽かに降る雪の音…

女王は月城の奥深く一人。

宴の燭も笑い声も止み、深々と稠密なる夜が訪れる…

柔らかな白絹に白銀の流水刺繍の寝衣を纏い寝台に腰掛けている。
灯りとりの焔が揺れ仄かにその横顔を照す。
凍てつく夜の空気がその肩に降りてくる。

今宵も参らぬか…

幾つもの彼の担う責務が苛酷を極めていることも知っている。
その全ては彼女の、女王の治世を切り開く為ゆえのこと。
密貿易により莫大な利を得ようとする者共を取り締まる為このところピダムは寝る暇さえ無いほどだ。

ピダムを案じる心…
ピダムの激務さえ容認せざるおえない心…
そして我儘と知っていてもピダムを求める心…

ダメだと知っている…
求めてはいけないのだと。
王がそんな心を持ってはいけないのだと。

けれど…
彼女は寝台から立ち上がり、重い扉の前に立ち尽くす。
彼女が命じればその扉は開き、命じなければ決して開かぬ扉。

扉に手をかけコツンとちいさく打つ。

(会いたい…会いたいピダム。)

…彼女は踵を返しゆっりと扉を後にする。

涙がこぼれそうになるのさえ耐えている。

不意に夜のしじまに吹き込むように降り始めた、雪をのせる風の音が聞こえてきた。



しんしんと凍える身を切るような冷たさが染みるよで仕事に追われるピダムは夕刻近くなるまで食ひとつとらず書簡に目を通したり命令書の作成に忙しく働いていた。

「司量部令、今夜はことのほか冷えます、そろそろ…」

そうヨムジョンが上目ずかいに言う。

「…ああ、だがもう少しだ」

「あのー…特になければ私は今夜はもう‥」

ピダムは書簡から目を上げて何がいいたいのだ?というようにちらりと彼を見た。

へへ…っというような小狡い顔で

「私にも行きたいところのひとつも有りますよ」

「……」

「今夜はことのほか冷えます」

ふんっ、というようにピダムはまた書簡に目を落とした。

「別に構わない」

ヨムジョンはそそくさと姿を消した。
勿論ミセンなどとっくに姿を消している。

夜も更けようやっと執務を終えたピダムは静寂のなかに雪の音を聴いた。

(「今夜はことのほか冷えます」先ほどのヨムジョンの言葉がよみがえった…)

「確かに冷える…」

扉を開け外にでれば風に吹雪脚を早める雪…

ピダムはもう深夜という刻会えぬであろうと知りながら女王の居殿へと急いだ。
途中不意に彼は身を翻し何か思い当たったように何処かへ向かい。

しばらく後…



扉の外で何やら声えを潜ませ押し問答する気配があった。

そうして慌てる女官を背に扉を開けピダムが入って来た。


「陛下…」

「ピダム、いかがいたした?」

雪に髪や衣を濡らしたピダムが足早に近づき、彼は次のトンマンの言葉が待ちきれぬように彼女をグイと引き寄せ抱き締めた。

外に降る雪を風が音を立てて吹きつけている。

甘やかな香りのする彼女の首筋に顔を埋め

「陛下…こんな夜、好きな女なしでいられる男はおりません…」

そう囁いて耳朶から首筋へ口づけを這わす。

「ぁ…ンッ」

トンマンは強く抱かれながらも不意に清らかな花の香りに気がついた。

「ピダム…花…」

その言葉にピダムは僅かに腕の力を弛め照れたように微笑んだ。

そしてそっと自らの袖口より一輪の水仙を取り出した。

「水仙ではないか…今時期?」

「はい…」

「夜中これを?…どして…」

ピダムは女王に微かに雪の香りのする花を手渡した。

「お気に召しませんか?」

「……いやそうではない…が」

(それより一刻も早くお前に会いたかっただけ…)

「陛下にお会したかったから」

「だから、この雪の中花を?


こんどは柔らかくピダムは口づけを落とした。

「ぁ……ん」

「陛下に春をお渡ししたかったのです」

(凍える道を歩む愛しい女人に…)

「ピダム…」

(お前が居れば…私は暖かなのに、気づかないのか?)

ピダムは甘く頬に口づけた。

「泣かないでください…」

女王は我知らず流した泪を唇で受けとめられて‥

“会えた…”

その思いごとピダムに再び強く抱き締められた。

凍える夜と燃える夜の重なる一瞬のしじまの中、二人を包むように愛しい女だけを思う一輪のただ一輪だけの花の香があった…







*『夜と夜のしじま』お読み頂いきましてありがとうございます。


凍てつく夜、愛しい女人を抱き締めたい…
愛しい女人に一輪の想いを伝えたい…
そんなピダムです。



今年初のSS は静かでそれでいて熱い想いのお話です…

うさこは、こんなピダム…(笑)









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