新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | ∧top | under∨

藍天の白雲

SS 愛してはいけないから


『藍天の白雲』

(結構、加筆修正いたしました…ぺこりん)

*******


夜の想いを秘め閉じ込めて、輝く陽射しを浴びる真昼の空…
その空は藍青色にただ何処までも青く…
そして、白い雲のみがその空の想いを知る…



むせ返るような夏草の香り…
さやさやとそよぐ風…

ピダムは軽く片手を上げて随行する部下に小休止の合図を送り馬を休ませる為に下馬した。

馬は草を食み川水で咽を癒す。

ピダム達は見張りを何人か立てはいたが国境付近とも思えぬほどの戦などまるで知らぬげな景色のなかにいたが、この度の視察は百済国境付近の物見の砦の位置と其処を守る謂わば最前線をもいえる場所への偵察であった。



「…国境への警戒は常に危機感を持たねばならないが…しかし他の者に任せることは出来ないか?」

ピダムの百済国境への視察の申し出に女王は少しの沈黙の後そう訊ね、なおも付け足した。

「お前も今や司量部令一介の兵のごとく敵情を自ら探るのではなく部下を使うのも令ではないか」

「…陛下のお言葉ごもっともにございますれどこのピダム率いる司量部機動力をも他を凌ぎます、是非この件ピダムにお許しください。」

「……」

真っ直ぐな眸が女王を見つめる。

「……出立は何時だ…」

「明朝」

「わかった司量部令ピダムに百済国境への視察を命じるが、あくまで視察のみに止めよ」

「小臣ピダムご命令承りました。」



出立前夜、隣で僅かな時を同床する男に女王は唇だけで呼びかけた。

「(ピダム…)」

先程まで甘く鳴かされながら攻められ目元が染まるほど愛されて意識を手放した…

けれど夜が明ければピダムが旅立つそれが彼女自身さえ知らぬ無意識の不安となって彼女を目覚めさせた。

静かに眠るそのピダムの顔は彫りが深く引き締って整い形のいい唇の下には公として相応しい髭が蓄えられている…。
鋭い眼光で貴族共を震え上がらせるその眸は今は閉じられていてまるで遊び疲れて無心で眠る少年の様にすら見えた。

「お前のこんな顔を見ればきっと皆驚くな…」

トンマンはピダムの髪を優しく触れるか触れないかというほどそっと撫でた。


(ピダム…辛くないか?)

トンマンは心で語りかけた。

(お前を側に置きたい…お前には才がある剣も政も、お前には幸か不幸かしがらみがない、お前には今や勢力がある、お前には欲がない、だから

……いや、お前が私を恋うるから…

お前を側に置きたい。)


お前が花をくれ手をにぎってくれる時…
お前の男が甘く強く暴れる時…
お前が誰にも見せぬ涙を流す時…

「愛しています…」

そうお前は言う。

その誓いの言葉に応えてはやれぬ…


それでも私を包むその想いを私は手放せない。


夜を留めることはできぬ…
夜は終わりを告げる。
だが空はその想いを包んだまま陽の光を受けて青く耀く。




百済国境付近にたどり着いたピダムに先行していたヨムジョンが報告する。

「ピダム公…やはりどうやら敵はこの辺りの勢力の拡大を目論んでいるようです」

「……」

「敵の物見の砦の数が前回の偵察時より増えて常駐している者も増えています、しかもその中にフギョンらしき奴等を見かけたようでございます。」

先発隊よりの報告を傍らのヨムジョンより聞き終えたピダムはフギョンという言葉に眉を寄せた。
それは明らかに何かの作が動いているということにほかならないからだ。

「このこと陛下と幢主にご報告なさいますか?」

「いや、まだ報告はするな」

「フギョンの動きを探れ…この辺りの村の様子も…」

「はっ」

「我々は敵に我々の位置を気取られぬよう場所を移しな
がら夜営する」



仁康殿ではトンマンが

「ピダム…」

(ピダム…お前は知らずに無茶をする、地位に見合う手柄を立て基盤を築きたい思いもあろう常にお前は反逆者の血を引くものだとの皆のお前を視る眼と戦っている、その思いを知っているから…何も言えない。そして、それは神国の為でもあるから…)

“けれどピダム行くな!お前を追えない私だから…お前は行ってはならない、私から離れるな…”声に出してそう言えたら…

トンマンは私室の大きな姿見に己を映し傍らにいないピダムをその中に探すように幾本もの蝋燭が耀き照らすその鏡の中を見つめていた。



夜営する小さな天幕へヨムジョンが飛び込むように入ってきた。

「司量部令!大変です」

ヨムジョンが言う。

「なにかわかったか?」

ピダムはヨムジョンの傷のある顔に眼を当てて静かにそう言った。

「奴等どうやら近隣の村人を連れ去っているようです」

「連れ去る?村の人など連れ去ってどうする、奴隷か?」

「いえどうやらもっと酷いことのようで…」

僅かな沈黙の後ピダムが眉をひそめ厭わしそうに言った。


「……フギョンか?」


「はい奴等連れ去ってはフギョンにするため彼等を責めているようで…」

「どういうふうに殺しても所詮新羅者ということか!!」

「幢主は知っておるのか!?」

「いえ、村人が行き方知れずになっていることは存じおりましょうがその先はまだ突き止めてはおらぬようで」

「……ヨムジョン…フギョンの砦を調べ他の砦より孤立させろ!」

「陛下や幢主へのご報告は如何に…」

「陛下には後で俺がご報告申し上げる、無能な幢主には報告など無用だ!」

ヨムジョンはビリビリとしたピダムの怒りを感じその爆発を避けるかのように頭を下げ急ぎ彼の命を遂行する為に夜の闇へ去った。



そして数日後の夜。
空には乳白色に耀く星々の川、さやさやと夜風に揺れるまだ昼の熱を微かにのこす草の匂い。


「よいか今夜この砦には我々以外誰も近づけるな!」

「敵の伝令は?」

「街道筋で全て待ち伏せ片付ける手配です」

「他の砦はすでに制圧済みです、他の砦にフギョンは居らず砦の人数は僅かでございましたお申し付けの通りすべて口を封じました。この砦も物見の砦フギョンの数は僅かここへ村人を捕らえどこかに送るのでしょう」

「…明日になれば気づかれようからやはり今夜この砦を落とし村人を解放せよ、フギョンは必ず逃すな捕らえる必要はない必ず仕留めよ!」

フギョンに挑むは司量部の精鋭といえど命賭けの仕事。フギョンは百済の暗殺集団だからだ。

草も木も全てが眠る刻、けれど眠らぬフギョンたちの砦は闇に妖しく浮かび上がっている。
そして息をころして潜むピダムと司量部の者も達も空気すら動かさぬように気配を殺しその瞬間にを待つようにゆっくりと砦を包囲した。



ジジッ…と松明が燃えその揺れる灯りの角に人影…

「誰だ!?」

敵の発する声がする。
音もなく近づけいたピダムらと不意をつかれたフギョンの切り合いが始まる。

「たぁーっ」

「はぁっ」

息を詰め吐き出す掛け声と共にカンッ、カンッ激しく剣があちらこちらでぶつかり合う。

フギョンの戦い方は並みの兵とは違い風のような動きでこちららを裏切り懐に斬り込んでくる。
勿論手段を選ばぬフギョンは鋲のついた手刀、猛毒の吹き矢も使う。

呻き声、絶命してゆく地獄を見たような声が聴こえては絶えてゆく。

それをくぐり抜けピダムとそれに続く者共は敵を倒し血糊のついた剣を奪った剣と変えながら返り血を浴びた凄絶な姿を燃える篝火に浮かび上がらせていた。

フギョンは闇から突然現れたピダムら司量部は敵いや魔のように見えたかもしれない。

ピダムは戦い方の違うフギョンを相手に一撃の鋭さで相手を圧していた。
急所を確実に捉え仕留める。

「やぁー!」

囚われた村人の元へ近づこうとするピダムらに最後の抵抗のようにフギョンが襲いっかる…

ピダムは膝を折り滑るようにそれをかわし己の剣と投げられた剣を受取り再び斬りかかろうとする敵より先に敵の背中に剣を突き立てた。

「行け!!」

ピダムの合図で彼の部下は囚われ人の戒めを解く。

この砦のフギョンの長か、決死の覚悟で砦から外の闇へ逃れようとする。

「行かせるか!!」

ピダムの声が捉えようとする縄のように逃れようとするフギョンに向かって放たれた。

高い砦の上からフギョンは闇に向かって跳躍した。
追うように躊躇うことなくピダムも跳躍する、ピダムの手には青白く光る剣……

落ちていく二つの影…
追うピダムの剣は落ちながら逃れようとするフギョンの脇腹から鼓動を一気に貫いた。


一撃必殺…


ドサッ…と落ちる音。

ダンッと降り立つ音。




空が僅かに白み始めた。

「神国の民はすで発ちました…お早くピダム公」

ピダムは頷き僅かに残った部下に退却の合図を送った。


彼等を乗せた馬は駆けその風は血の匂いを後方へと飛ばしていく…

「ピダム公あなたの側だと命が幾つあってもたりません」

ヨムジョンはやっといつもの小狡い笑いを取り戻してそう言った。

「ピダム公あの時の剣、あれは貸しですよ」

その言葉にピダムは方眉を上げ

「あの剣のが運だとでも言うのか?」

「………」

「無駄口はそれくらいにしておけ……だがな…掴んだのは俺だ…」

(運などあろうがなかろうがかまわぬ…だがな、あったとして‥掴まなければそれはただの屑だ…)



馬上から見上げれば黒いように青い藍天の空。

神国の抜けるように美しい空が広がっていた。


(「ピダム…」)


そう彼を呼ぶ声がした。


「行くぞ、ソラボルを目指せ!!」


(トンマン…)


駆け抜ける彼等の上にはその藍天に一筋の白雲が浮かんでいた。


(目指す場所はお前の元だけ…)


空と雲が一対であるように風に乗りピダムは雲になり彼のただ一人の天、彼の愛する女王の元へ馳せ駆けていった…。






*『藍天の白雲』(らんてんのはくうん)お読み頂きましてありがとうございました。


これは書こうとしてつい別のものを書いてしまい遅れましたがやっと書けました。

このお話は公共の敵を見て少しそのイメージが入っているお話です。

えー!?どこがーー??ともしかしたら思われる方もいらっしゃるかも…。

なんとなく…あれを ̄(=∵=) ̄が見たらこういうお話が出来た…というだけのことかもしれません。

あえて言うなら“一撃必殺”です。

それに子供の頃 ̄(=∵=) ̄が見た黒いように青い青い夏空…その組み合わせたイメージで書きました。

ぺこりん…



それでは皆様また…



*幢主(タンジュ)…このSS の場合この地を女王の命に(もしくは代々)よって治める城主のこと。





*9/1Pm 3:00加筆修正いたしました。








スポンサーサイト
別窓 | 愛してはいけないから | コメント:2 | ∧top | under∨

俄か雨

SS 愛してはいけないから

『俄か雨』


*******

いつか、過ぎた日…



「公主様此方へ、急に雲行きが怪しくなって来ました。」

「ああ、さっきまで青空であったのに」

「お急ぎください」


公主になって日も浅いトンマンは時おり政務漬けの時間を割いてピダムと出掛けることがある。
トンマンは視察と称しピダムは名目などどうでもよくただ彼女といられることが嬉しかった。
そして今日もいい顔をしないソファを尻目に宮殿をあとにした。
実際ソファは二人が思っている以上にただの公主と花郎ではすまなくなるのでは…と危惧していた。

本来なら公主と花郎まったくの似合いで穏やかに王の姫として幸せになってほしいと願うのだがピダム郎ではダメだ、ピダム郎だけはダメだ!とそれなのにどんどんトンマンはピダムを信頼しピダムにいたってはその公主を見る眸は明らかにただの臣下のそれではない…


「降りだしました、さあ、お早く!」

ピダムはトンマンの手をとって駆け出した。

淡水色と薄紅芙蓉色の衣の美しい貴族の娘とこれまたハッと人目をひくすらりと背の高い花郎らしき男の姿の駆けていく二人をすれ違った幼い兄妹らしき二人が驚いたように見た。
この辺りではそのような高貴な人など滅多に見かけぬからだ。

何処か雨宿りできる場所はとその子らに聞くと吃驚したように立ち止まり少年が向こうの方を指差した。
トンマンが礼を言い貴人に声を掛けられ面食らいながらも礼を言われ嬉しげな彼らもまた家路へ急ぐのであろうぺこんと頭をさげると駆け出していった。

トンマンとピダムが飛び込むように少年に教えられたあばら屋に駆け込むと同時に急に雨脚が激しくなった。

雨のせいか辺りは薄暗い…

「公主様、火をおこします」

「火?」

「幸い雨脚が激しくなる前にたどり着きましたが、それでも少し濡れてしまいました、お寒いですか?」

「ああ…いや」

ピダムに言われ自分の肩から袖がしっとりと濡れているのに気づいた。

ピダムは手慣れた仕草で火をおこし枯草から木切れにたちまち火をつけた。

「さあ、此方へ…」

パチパチとはぜる音に火の粉が舞う…

「空の気は難しいな、今日は雨など降らぬと思うていたのに」

そんなトンマンの少し頬を膨らませた物言いを聞きながらピダムは少し笑った。

「空の気を読むには師匠くらいにならねば。」

「やはり日頃文句ばかり言っていても国仙を敬っておるではないか」

そうトンマンが揶揄すると

「剣の才は俺の方が優れています…が天のご機嫌は師匠に任せています」

とうそぶくピダム。
負けず嫌いのピダムのものいいにトンマンは笑った。
ピダムは口に手をあてるでもない無邪気な笑顔を眩しく見つめた。

「髪が濡れました此方へ」

「自分でやる、貸せ」

ピダムは布を出すふりをしたがトンマンが掴んでも離さず、軽い引っ張りあいになった。
急にピダムが手を弛める。

「あっ」

トンマンが布を掴んだまま倒れそうになりその瞬間ピダムが布を強く引いた。

「ぅわっ…」

トンマンはバランスを崩してピダムの胸に倒れこんだ。

慌てて身を離そうとするがピダムが抱き留めた腕に少し力を入れて

「暴れないで、髪はピダムが乾かしますから」

「………」

トンマンはピダムをその腕の中から見つめピダムの理性をぐらつかせた。
トンマンはピダムの僅かな動揺をみてとり身を離しくるりと後ろ向きになり言った。

「公主の髪だちゃんと乾かせ」

「…はい、公主様承りました。」

照れ隠しのようにわざと強い命令口調のトンマンにピダムは声で微笑む。
そして一房また一房しっとりと美しい黒髪を手にとって包むようにきれで水気を拭き取ってゆく…
見え隠れするうなじに柔らかなおくれれ毛‥

外はうちつけるような雨の音
耳朶の後ろの痣にそっと触れる‥

「………」

(好きです…)

躊躇うような言葉を雨音がかき消す

「?‥何、聞こえない」

ピダムが触れた痣が熱い、だけど‥

「……いえ…」

暫くの沈黙の後

「昔幼い頃…こんな俄か雨のあった日師匠と暮らす家に可愛い赤子が来たことがありました。」


「…それで?」

髪を拭くピダムの手を感じながらトンマンは聞いた。

「その赤子丸くて可愛いかった。私の手をキュッと掴みました…そこには私と師匠とその赤子、それにもう一人誰かいた気がいたしますが…覚えてはおりません…どうしてか雨音のせいか急に随分昔の事を思い出しました。」

「おそらく国仙の知り合いでもあろう」

「……はいただその赤子とはそれきりで今までずっと忘れておりましたが」

幼いピダムが見た赤子の痣と公主にある同じ痣が遠い記憶を呼び起こしたことを彼は気づかぬ。

「可愛いかったか?」

「はい」

「すごく?」

「はい」

「ふーーん」

「……つきたての餅くらい可愛いかったです」

その応えにトンマンは声を立てて笑った。
振り返り肩越しにピダムを見るトンマンの眸は何故か無垢なあの赤子に似ている気がした。

「少し公主様に似ています」

「赤子とか!?」

「はい」

赤子と同じにされたトンマンは少し頬をプリっとした。

「ほら、やっぱり餅みたいにプリっとしています」

彼女の頬にピダムは指先で触れながら言った。

なんだか少し癪にさわったからトンっと勢いをつけてピダムの胸に凭れかった、そしてあっという間に身を離して立ち上がり戸口に立って振り返り

「もうすぐ雨があがる」

ピダムも立ちトンマンの傍らで雨雲の間から射す光を見ていた…



「どうしたピダム…?」

書簡から目を上げ傍らで書簡を閉じて此方をみている男に女王が訊ねた。

「いえ…ただ、俄か雨でしょうか先程よりふりだしたようにございます」

(雨音は過ぎた日を思い出させる…)

「ああ…」

「雨は降り止んでなお大地の底を流れ続けます。」

ピダムは立ち上がり女王の側により書簡を閉じさせた。

「‥それは油断がならぬな」

「はい」

「少しお休みください」

「……」

ピダムは女王の頬に微かに触れるような口づけを素早く落とした。

「雨もお前も油断ならぬな」

そういって女王は一瞬トンマンの顔で微笑んだ。



俄か雨、ぽつりぽつり…
だが、それはたちまち辺りを滲ませ山をかきけす…
そしてその雨はやがて大河へ流れ大海へとそそぐ…




ピダムの想いも雨の如く激しく降り注ぎ…そしていつか愛する女の胸に沁みていくだろうか…










*『俄か雨』お読み頂きましてありがとうございました。








別窓 | 愛してはいけないから | コメント:0 | ∧top | under∨

天の亟 地の亟(後編)

この記事はブロとも、もしくはパスワードを知っている方のみ閲覧できます
パスワード入力
ブロとも申請
別窓 | 愛してはいけないから | ∧top | under∨

天の亟 地の亟(中編)

◯新月の小部屋一周年記念SS

SS 愛してはいけないから

『天の亟 地の亟』(中編)

*******

夏の夜は熱をもった空気が辺りを押し包む。

ハソルを上座に老練な貴族シウルは声を潜め言う。

「ハソル様…司量部令め甲利貸を税で締め上げ市場封鎖に係わった者を次々に捕らえております、このままでは我々に辿り着くのも時間の問題にございます。」

「…………」

「捕らえられた甲利貸共、些か惜しい気もいたしますが…始末なさいますか?」

「………殺れ、但し次の手も用意せねばならぬ…」

「と、申しますと」

「そなたがしくじると言っているのではない、ただ我は奴には決して敗北などせぬ…」

「ならばいかがいたせばよろしいでしょうか」

「………司量部量の屋敷を襲え、だが‥同時にやつの大事なものを押さえる」

(ピダムお前…陛下と己の命、さあどうする?)

「まさか!」

「月城で押さえるは本意ではない‥いや待て、陛下はそなたに任せよう私は奴を仕留める」

(ピダム、己の野望の為か、それとも愛だとでも本気で言うきか?…だが何れにせよお前ごときがが聖骨の女王を求めるなどそれこそ許しがたい反逆行為ではないか)

「手練がおりましょうか?」

「おる…ウォルグァンだもっとも今はホンウォルと名乗りおるがな」

「ホンウォル‥ウォルグァンとは…生きておりましたか、ムンノ公そしてあのチルスクにも見こまれておりながら花郎従を去ったあのウォルグァンあの者ならば、確かに。」



風が‥熟れて、甘く高貴な果物の腐臭を夜の闇の中にどこからかただよわせていた。




その夕、ピダムは久しぶりに自邸へ戻っていた。
簡素な食事をとり白湯を飲む、彼は恐らく息を潜める敵動きを思い眠れずにいるであろう女王を思った。
彼の寝ずの疲労を思い退出させた女王の心を思い…ピダムは上質だがほとんど装飾のない室の寝台に身を横たえ眸をとじた。


「ピダム御苦労でした、お前の働きで市場は解放され甲利貸も痛い目をみたであろう…あとは貴族とその背後にいる者をどうするかだが、貴族達もそう簡単には動けまい…なにしろ動けば金より大事な命も無くしかねないからな。」

「動かぬでしょうか…?」

「動けまい…」

退出前に女王と交わした話を思いだしながらピダムは閉じた眸の裏にある公子の顔を思い浮かべていた。

(ヨンス公の息子チュンチュの異母兄にあたる白皙 の公子、今回の黒幕はそのハソルではあるまいか…甲利貸から貴族への金の流れを辿るとどうしてもそこへ行き着く。
宮殿でミセンも一目置くほどの才知を持ちながら控えめで常にチュンチュを立てて陛下からもヨンチュン公からも信頼されている…が、あの眼だ俺を視るあの眼が…奴なら静かに秘かに玉座を狙うはず。
そして陛下を手に入れんと欲するあの眼…

だが、陛下は奴を信頼しておられるあのチュンチュのクソガキですらハソルをさほどとも思っておらぬようだ…だが奴は牙を隠す虎…)

(ヨムジョン、俺の命を違えるな!‥)


ピダムは眸を閉じた。
どのくらいたったか…
その時、音は無い。
だがピダムは何者かの気配を感じた。
それは到底並みの者では気づくことも感じることもできぬ空気の音とでも言うような…
彼は寝台に身を横たえたまま剣をとる間合いを決めるように息を止めた。



「陛下…ピダム公の屋敷より使いのものが参りました。」

アルチョンが言う。

「ピダムから?」

「してその者は?」

「待たせてございますが…」

「会おう」

「然し…」

トンマンは身支度を整えピダムの使者と会った。

ピダムからの言伝ては“神国の敵は明らか今夜それを葬り陛下の元へ叶いしだい参じます”と。

トンマンは言伝てを聞き使者をじっと見た。

「参じるにはおよばぬ…連れていけピダムとその神国の敵とやらの処へ」

(お前は何者だ…いったい誰の使いだと言うのだ!?……ピダムを捕らえたとでも言うのか!誰をもって敵と言うのだ!)

「お一人で参られませ、陛下」

「…………」



闇と同化するように音もなく侵入者は室に入った。


召人の叫び声すらなかった。
恐らく声すらたてるまもなく殺されたであろう…

(来る!)

ピダムは寝台から転がるように降り次の瞬間灯りとりの燃える炎の皿を敵の気配めがけて蹴り上げた。

ピダムは剣を掴む為一気に跳躍した。
そうはさせじと敵も躍りかかるようにピダムめがけてその刃を降り下ろした。




青白い焔の殺気と紅蓮の殺気は絡みあい室を突き抜け、その鋭く打ち合う剣をの音は夜空に耀く遥かな星を震わせていた…







続きます…

別窓 | 愛してはいけないから | コメント:0 | ∧top | under∨

天の亟 地の亟(前編)

◎新月の小部屋一周年記念SS

SS 愛してはいけないから

『天の亟 地の亟』(前編)

*******

…青雲の衣に白虹の劔を帯び、夜明けの天空に蒼く煌めく夏の天狼…


王の子として、王位を望む高みに産声を上げ、けれど父王からも母からも見捨てられその存在を消され野に打ち捨てられた…それはまるで煌めく星官から追われた失われた孤独な星。



「ピダム公、陛下からのお話はどのような用向きで?」

執務室に戻ってきたピダムにミセンが問いかけた。

「……高利で貸付民から搾取し遂には民をヌヒに落とす輩の取締です」

努めて冷静な声でピダムは言う。
その答えを聞きミセンは驚き事の重大さを危惧するように言った。

「それは……甲利貸の取締、おやりになるのですか」

「無論ですこれは陛下の御命令です」

「しかし!これは貴族が黙っていますまい」

「そうです、これは甲利貸との戦いではありませんむしろ貴族との戦いです」

「甲利貸はほとんどの貴族と切手も切れぬほど癒着しておりますぞ、我々はあれ以来…それほどの資金源とはなっておりませんから打撃は少ないでしょうが他の貴族はそうはいかないでしょう。本気で向かって来ますぞ、これは下手をすると我々自身危うくなりかねない…それでも…」

「……………」

ヨムジョンは何か言いたげにソルオン公を見、黙っていよと目線で制されハジョンはけたたましく抗議しかけてピダムに一睨みされポジョンは苦い顔でそんな成り行きを見守った。

ピダムが今はこれ以上口を開かぬとみてヨムジョン以外は皆席をたった。

「……どうなさるおつもりで?」

「税を増やす」

「しかしそれでは余計に奴らは搾取するのでは?」

「いや高利で貸せば貸すだけそれ以上の税を上乗せする、また利息を減らし返済に猶予を与える者については税の上乗せはしない、不正にこれを潜ろうとする者あらばそれを口実に潰す」

「………」

「尚、甲利貸と繋がりの深い貴族を見張れ出方しだいで見せしめとする、いけ!」

「はっ。」

ヨムジョンはピダムの策を実行するため素早く室を出ていった。



トンマンはピダムに命を与えたこの度の改革は貧しき者を守ること、貴族を後ろ楯に我が物顔に振る舞う甲利貸を押さえるこ、とそして貴族のおおきな資金源を断ちその力を削ぐことこの三つを躊躇なく的確に行えるのはピダムだけだ。
しがらみに捕らわれず欲にも捕らわれないそしてこの改革の重要さもお前なら理解できよう。
そう思いまかせたが…
この改革は容易には成るまい財を守ることにおいては貴族というものは時にその血統を守るより大事なことだと知っているからそれは血統は財では買えぬが財がなければ血統などなにほどでもないと。

(どうする?ピダム…私の思いを成し遂げられるか‥)

トンマンはリピリとした緊張感とそして敵の抵抗を思いピダムを案ずる思いが胸のなかで大きく波立っていくのを感じた。



そんな、ある夜…

妓楼の奥まった部屋にその世界では知らぬものはおらぬソラボルの金の流れに精通している、いやソラボルの金の流れを握っているといってもいい面々が顔を揃えていた。

「シウル様あの御方はまだで…?」

「ああ…用心なさっておいでだ、司量部が動いておる」

「司量部…厄介な」

「ああ…厄介ではすまぬ司量部ということはこの度のこと陛下直々の命ということだ…」

その話し声を遮るように声がした。

「おみえになりました。」

巾で目の下を覆った高貴な貴公子が現れその妓楼の一角が一瞬華やかな光をおびた。
貴公子は躊躇う様子などなく上座に座り居並ぶ面々を見回した。
満足げなその目元が僅かに分かるか分からぬような、だが鋭い光を放った。
そしてソラボルを牛耳る大業主に向かい頷いた。

「お集まりの方々、…」

大行主の言葉に皆は聞き入り大きく頷く。

何としてでも自分達への悪法を改めさせるべしとの言葉は皆腹積もりと同じ。

「ピダムは厄介、畏れおおいがその上つ方もなお厄介…」

と、貴公子は言う。

「お委せください、明日より市場には麦一粒、子猫一匹上りませぬ。我らの力を思いしるでしょう」

「ほぅ……それは一興」

市場で何一つ商うことのない…全て閉鎖された様子を居並ぶ者皆思い浮かべた。

「そなたたちの辛抱も試されるな‥」

「ハソル様、手前どもは辛抱を銭以上の物に代えて頂ける御方の元でのみ其を悦びといたします」

巾の主は微かに口許を歪めて笑い言った。

「…陛下の恩情で命拾いした反逆者の息子、真骨だ?片腹痛い」

ハソルのその顔はなまじ色白く女のような面であるため一層酷薄に見えた。



「陛下、巷は大変な事になっております」

ヨンチュンは女王の元へ駆けつけた。
ヨンチュンからの知らせに女王の顔は曇り

「しかもいろいろな噂も飛び交っております。」

「どのようなことでしょう?」

「市場の封鎖は畏れおおくも陛下が意に従わぬ商人を困らせるためにソラボルへ届く品をわざと足留めなさっているからだとか…また其らは陛下の意をかさにきる司量部の仕業であるとか…」

「……‥」

「陛下…」

「ピダムを呼べ!」

そう女官に告げると彼女は黙りこみヨンチュンはそっと退出した。



「陛下」

「ああ、市場を止めるとは…奴らあくまで一歩も譲らぬつもりだ。まず市場を開け民が苦しむ」

「はい」

「ピダム、しかしお前が市場を開けば敵がどうでるか」

「おそらく命も狙って参りましょう」

女王の眸が揺れた…

「ピダムっ」

思わず小さな声がその唇から漏れた。

「陛下…」

ピダムの女王の不安な心を包むような声音に彼女は頷き

「まずはおそらく関所や船着き場で荷の妨害をはかっておろう」

「はい、ポジョン、ヨムジョンを向かわせましてございまする荷の妨害を図っております商人近隣の貴族の拘束を命じました。」

彼女は頷き

「そこまですればやはり敵も黙ってはおるまい、ピダム決して油断するなでが敵の黒幕を見破るまで引き付けることも忘れるな!」

そう言った後でトンマンは僅かに唇を噛んだ、何故なら引き付けるそれはピダムを的にすることをも意味するからだ…

そんなトンマンの顔をよぎった一瞬の苦しげな、辛そうな思いをピダムは見た。


「陛下…」

ピダムはトンマンの側により手をとってその指先に口づけた。

「ピダムっ…」

「殺られはいたしません、必ず黒幕を暴き陛下のご命令通り遂げてみせます。」





ソラボルの闇は忍び寄り、若き覇道を歩む開陽の女王とその傍らに控えし野に下った天狼の耀きを持つ男に今その牙を向けようとしていた……






続きます…









別窓 | 愛してはいけないから | コメント:4 | ∧top | under∨
| 新月の小部屋 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。