新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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催涙雨


SS 愛してはいけないから


『催涙雨』

*******

涼しく夏の夕風が更々と竹林をそよぎ吹きすぎてゆく…
そして、水面には光る水飛沫。

「陛下、またそのように」

屈託なく水辺を楽しむ女王にアルチョンの心配げで、そして少し咎めるような声がそう言った。

「アルチョン公もどうだ、気持ちがいいぞ」

笑いながら女王らしからぬ様子で小川に素足を浸け小首を傾げるトンマン。
そして、薄い瑠璃色で裾は透ける五色の布にに切り替わる衣から軽やかに水を蹴る足首が見え隠れしている。

アルチョンは眩しくそれを見つめている。

(…陛下はもしかしたら本当はこのように野におられるのがお幸せなのやも…)

彼は不意に浮かんできたそんな自らの思いを打ち消すように

「夏と言えどはや夕刻お風邪を召しますゆえ御上がりください」

「……わかった」

トンマンはアルチョンの顔を見て大人しく言った。

(もう少しいたかった…ピダムだったらな、アルチョンではダメだ。)

そう思いながら

「ところで、ピダムはまだか?」

「はい、司量部令はまだでございますが…人をやって見て参らせましょうか」

「いや、……それにはおよばぬ」

「もし、司量部令が参れぬようでしたらこの侍衛部令が不寝番をいたします。」

「そうだな…司量部令よりそなたのほうが私との付き合いは長いそうなったら頼もうか…?」

そういって笑いほっそりとした手を差し出した。
アルチョンは一瞬の躊躇いの後その手をとり軽く引き上げた。女王の躰がその反動で少し傾げアルチョンにもたれかかるようになった。

「あっ…」

「陛下」

アルチョンは女王を胸に抱き止めそっと離した。

「申し訳ありません」

女王は悪戯っぽく笑い

「侍衛部令はいつまでたっても朴念仁だな」

他意にとらぬ者だからこそ言える軽口

「はぁ…」

分かったような分からぬような顔でアルチョンは女王を見つめる。
ドクン…
だが、急に何故だか一瞬彼の胸が高鳴った。

「やはり夕風にあまり当たるはどうかと…」

「どうした?今日はピダム以上に過保護だな…」

そううっかり言って女王は少ししまったと思ったがアルチョンはその意味には気づかぬ様子。

(だからそなたは朴念仁なのだ、だけどそれだから佳いのかもしれぬ)

(ピダム…そういえば陛下は日頃はピダムに敬称を付けない)

ピダムという存在を……アルチョンはふと思もう。

(ピダムと自分最も互いに女王の近くにいる、だがその有り様はま全く違う‥私は王を護り何があってもその命を遂行する。
何故ならそれが陛下がピダムにではなく我にに求めていることのように思われるからだ、ならばどうあってもそうで有らねばならない。)



その頃ピダムはまだ宮殿を出られずにいた。
次々にある仕事は勿論早く切り上げたいこんな日に限ってミセンやらハジョンやらからやたらピダムを誘う使いが来る。
おそらく女王の清遊の間の今、酒や女の手解きでもと目論んでのことであろう。

「ヨムジョン、いいかミセン公やハジョン公例えソルォン公からなにか言ってきてもお前で止めておけ!これ以上よけいなこと取り次ぐな…」

「わかりました」

ヨムジョンはイライラした様子のピダムを上目遣いで見やり頷いた。

(陛下はどうしておられるか…
本当なら今頃もう一緒にいられるはずだったのにミセン公めいつの間にやら姿をくらましたかと思えばピダム公好みの女人幾人か用意しただと!
まったく!!
そうそう陛下が何人もいてたまるか!)

ピダムの心は数里を飛んで女王の元へ向かい躰は山積みの書簡と対峙していた。



女王とアルチョンが
邸に帰ってしばらくしてサァーッと雨の音が聞こえてきた。

「これは、間の悪い折角の七夕だというのに」

「………」

「陛下?」

「…あっ、いや‥アルチョン公も七夕を知っていたか、と思ってな」

「そこまで不粋ではありませぬ」

アルチョンがいい二人は笑った。

先程までは美しい夕景であったのに日か沈むと間もなく降りだした霧のような雨はだんだん音を立てる様に降りしきる…

「天の雨、今宵は逢えぬやもしれませぬな」

「……催涙雨か…」

暫く二人は止まぬ雨音を聴きながら同じ時を過ごしていたが夜も更けアルチョンは次の控えの間に辞していこうとした。

「アルチョン公、」

扉を出ようとした彼に女王の声が追いかけて来た。

「はい…」

女王の言葉を聞き彼は昼間自分自身の女王の意に従い続ける誓いをもう一度胸に刻んだ。

雨は止まぬ…

夜半、雨にしとどに打たれずぶ濡れのまま取り次ぎも憚られるかと危惧しながらもなんとか一目女王にトンマンに会いたいとピダムは夜の道を駆けに駆けてきた。

(陛下、陛下…)

やっと邸に着き取り次ぎを頼もうとしたが女官はおろか護衛の者もいない…困り果てたピダムのもとへアルチョンが現れた。
何か言おうと口を開きかけたピダムにそれより早くアルチョンが言う。

“烏鵲橋を渡り参れ”

「陛下のご命令だ…」

「……」

ピダムは軽くアルチョンの肩に触れ後は振り向きもせず急ぎ女王の元へ向かった。

女王の室へ続く渡り橋にさしかかったピダムは足を止め驚いた。
その優美な古式の橋にはまるで天の織女が織ったかのような白絹に金糸銀糸の流水紋様に烏鵲が織り出された布が掛けられていた。
ピダムは沓を脱ぎ捨て逸る心を押さえその絹の橋をゆっくりと渡っていった。
素足に触れる絹布はまるで烏鵲の羽根のようにピダムを女王の元へと運んで行くようであった。

「陛下…」

ピダムは呼び掛けた。

扉は開き

そこに立っていた女王はそっと細い指先でピダムの濡れた髪に触れた。

「催涙雨は雨に泣く涙ではないたとえ天銀の河が雨で溢れ二人を隔てても烏鵲橋天空にかかり必ず想い人たちは逢う喜悦の涙だ」

「陛下…」

ピダムの眸に潤むものがあった。

「ピダムっ」

それをそっとトンマンは拭う。

「催涙雨にございます」

そう言ってトンマンとピダムは天駆け逢う二人のように見つめあった。

ピダムは煌めく星のような彼のただ一人の織女に静かに口づける…


天空に光り煌めく星の河に渡る鵲の橋、七夕の夜雨に星が溢れても、尚それを越え恋うる二人を愛逢わす…













*催涙雨(さいるいう)
*七夕(しちせき)
*烏鵲橋(うじゃくきょう)(オザッキョ)←鵲の橋(かささぎの橋の)意







*こんばんは『催涙雨』お読み頂きましてありがとうございます。

日本では催涙雨とは七夕に降る雨のことです(年に一度の再会の機会を失った織姫と彦星の涙と言われています)が、雨夜天の河に星が溢れ二人を裂こうとしても鵲の橋が天空にかかりきっと二人は再び廻り合う…
七夕の諸方に伝わるお話を ̄(=∵=) ̄なりの解釈で織り交ぜてトンピの七夕としてみました。
韓国風に言うなら催涙雨もきっと二人の流す再会の悦びの涙なのだから…


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