新月の小部屋

気ままに善徳女王創作二次小説を中心に他にも赤と黒の創作二次小説を綴っております。

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菫の鍵

SS 愛してはいけないから

『菫の鍵』

*******

濃淡様々色とりどりの紫の花。
どこか、物憂いような霞がかった香りのまだ露のついた菫の花束を持ち、肩にその黒髪を滑らせたまま白絹の寝衣で立って、女王はその花に頬を寄せている。

春朝の煌めく目映い光は躰の弱っている女王のには強すぎるのか儚いようなその姿をいっそう儚く見せていた。

「陛下、私です」

入室の許可も待たず女王の私室に入ってきた男を見て

「ピダム」

振り向くようにして女王は男の名を呼びふわっと微笑んだ。

「陛下…起きあがってよろしいのですか?」

「ああ、お前が来る頃だと思って…」

「無理をなさらず、お休みになってください陛下…」

ピダムは女王をゆっくりと寝台に腰掛けさせた。

「ピダム…花、ありがとう」

「お気に召しましたか?」

女王は微笑み花束を持った手をピダムの頸に回した。
ピダムは少し驚いたが女王の背を優しく撫で

「どうなさいましたか?」

「………」

「お休みください」

「上大等の衣、お前によく似合う」

そう言う女王をピダムは深く柔らかな眸で息のかかるほど近くで見つめ幼子にするように鼻と鼻を少し擦り合わせた。

「あっ、ぴだむ」

女王は両袖で口元を隠しクスクスと笑った。




「陛下」

チュンチュはヨンチュン公が退室した後女王の執務室に一人残り彼女を見つめた。

「ピダムを上大等になさるとはしかも貴族の私兵を奴に集結させるとは、恐れながら余りに…」

「……余りに、危険か?」

「はい、陛下もご存知のはず」

「………」

「非常時とはいえピダムとその勢力にさらなる力をお与えになるとはそして今、局面はのりきったのでは?」

強い語気を押さえ損ねてチュンチュは言った。

(陛下のお考え解らぬではないが、相手はピダム並みの相手ではないしかも…)

「ピダム以外に貴族達がなっとくして兵を差し出すとはおもわぬが?」

「それは、そうですが」

「それにピダムは逆らわぬ、ピダムの忠誠心は確かだ。」

(チュンチュ…何故信じぬピダムとてこの新羅の忠実なる臣だ)

「ピダムの忠誠心?」

(ピダムの忠誠心の向かうところが新羅ではないのは御存じのはず)

「ああ」

「それをお信じになっての上大等ですか!」

この話しはピダムを上大等につけた日から燻り続けていた。

「我は新羅を愛しているその新羅にピダムが忠実であるのに不思議はあるまい。」

(陛下…御存じですか?愛が分けられないことを王とは地上の神、人の愛とは無縁とチュンチュは心得ます。だがピダムに王の心がわかりましょうや?そしてピダム相手に陛下は地上の神のままでおられましょうや…?)

「陛下がそのようにお考えなら」

「チュンチュ、案ずるな。」

女王は全てをその器に包み込む者の眸でそう言った。



あの時彼女は本当に素直になれた。

ピダムの涙がそうさせたのかそれとも握られた手の温もりがそうさせたのか気づけばピダムを追っていた。

あの霊廟の夜から数ヶ月ピダムを上大等にして政局を乗りきりユシン軍の勝利によってユシン派が大きく力を持つことも防いだ。
ピダムを上大等にしなければ貴族の統率をとることはできないましてユシンと婚を結ぶという皆の胸にいつも浮かびあがる思い、何時かそれが表に吹き出しかねないその考えを塞き止める為にはピダムを上大等に置き強く牽制するしかなかった。

けれどそんな政治的思惑とは別にあの夜ピダムの腕の中で心から素直に求める愛しさ、打ち消すことなどできない思いを改めて知らされた…。
そして時によっては自らの婚さえ政略の道具と考えていた、それをその考えを打ち破りただ愛する者に素直に微笑みかけるそれだけでいいんだと…。



春の夜の華やかなざわめきが静かな仁康殿へも漏れ届いていた。

倭国からの使節団との饗応の宴を抜けピダムは女王の室へ来ていた。

「陛下…ご気分はいかがですか?」

心配げなピダムの掌を取り一瞬美しく誰より愛らしい笑顔を彼に向けた。
次に女王の顔で

「ああ大丈夫だ、ピダム明日は私も使節団の謁見を受ける」

(新しい上大等の態勢の安定を図るため内外に隙はみせられぬ)

そう言った。

ピダムは女王を見つめ

「ピダムをお信じください、けっしていかようなる企みにも落ちはしませぬ、陛下をお一人にはいたしません」

(チュンチュ、奴になにが出来るさせはしない!)

ピダムは女王を強く抱き締めそう言った。

「ぁッ、ピダムぅ」



春の夜風はどこかで巻おこり企みを隠す…嵐をよぶまで

だが、この仁康殿で羽を寄り添わせ束の間憩う二人にはその音は聞こえない…

ピダムの腕の中では時の流れも星もその瞬きを止め春の夜を閉じ込める…
上大等の菫色の衣は女王の白い表衣に内着の花蘇芳の彩に重なって、それはまるで一対の春。

ピダムの想いだけがきっと、トンマンの気高き孤高の心を開ける…鍵








*皆様お読み頂きましてありがとうございます。
今回の『菫の鍵』はこのところピダムの上大等の衣の色が頭から離れず“菫の花束は心の鍵”というフレーズが浮かび続いて浮かびあがってきたお話です。
なのでいつもの司量部令ではなく上大等のピダムになっています。
時系列を追っていない ̄(=∵=) ̄の妄想SS ですどうぞご容赦ください。(ぺこん)


(1月13日.500拍手御礼)

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雪夜

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積恋

SS 愛してはいけないから


『積恋』

*******

ソラボルの冬は時に凍てつくような風が吹きそしてその風に雪の花が舞う…

そんなある冬の日


暖かく調えられた女王の執務室でこの日珍しく遠征から予定より早く帰着したユシンとウォルヤと共に女王は制圧した部族の話しなどしながら無事の帰還を祝っていた。

「ユシン公ご苦労でした。無事の帰還嬉しく思います。」

「はっ、陛下。」

「下将軍の活躍も聞いております。」

「恐れ入ります…」

「しかし雪が積もるまえの帰着でなによりでした…」

「はい、積もればやはり軍の動きに遅れがでます」

「祝勝会などとり行い皆でそなたたちの勝利を祝いたい」

女王は晴れやかな笑顔を二人に向けそう言った。

「…いえ私は陛下のそのお顔を拝見できればそれだけで勝利した価値がございます。」

「ユシン公はしばらく会わぬうち口が上手くなったな、そうは思わぬか?下将軍。」

「…新羅兵士みな上将軍と同じく陛下第一にございます、もちろんこのウォルヤも、陛下。」

「これはユシン軍は戦の巧者揃いと思うておったが世辞も巧者とは…」

笑いながら女王が言うと

「けっしてお世辞では
ありません。」

剥きになるユシンに女王とウォルヤは顔を合わせて朗らかに笑いあい戦の労も忘れる一時を過ごした。

その後チュクパンがやって来たりヨンチュン公、止めはチュンチュがやって来て女王は時のたつのも忘れるほど多忙であった…。

そして外は何時のまにか薄暗くなりまた雪がちらちらと舞い始めていた。

「‥か、陛下…」

チュンチュの何度目かの呼び掛けに女王はハッとして目の前の自分を訝しげに見る甥の顔を見た。

「ああ…すまぬ、なにか言ったか?」

「……今日お食事をご一緒してもよろしいでしょうか?とお尋ねいたしましたが…。」

いつになくなんだかそわそわした女王見つめチュンチュは言葉を繋いだ。

「どなたかと他にお約束でもございましたか?」

「約束…約束などは別に、ない。」

「ならば今夜はご一緒してよろしいですか?」

「…ああ、チュンチュと夕餉を共にするのも久しぶりゆえな」

女王はなんとなく歯切れ悪くそう言った。

チュンチュはそんな女王にあくまでも素直に見える笑顔で

(まさかピダムと今夜の約束でも?)

「今宵は司量部令は報告には来ないのですか?」

「…司量部令はとくに報告に参るとは聞いておらぬが、何故だ」

「いえ、何か御予定がおありのように思えましたものですから」

「司量部令はここには参らぬし今日はもう誰か来るということはあるまい。」

(ピダムはここにはこない…ここには。)

「‥さようですか、ならばよいのです」

(……思い過ごしか、この頃私はヤツを気にしすぎるのかもしれない…陛下があの者に与え過ぎるから)

その後別室に設えられた食事はチュンチュの好きな唐好みの優雅な料理に酒、女王の好きな羊肉の羮に葡萄酒、乾果片など王の食卓はかくやともいうべきものであった。




その日ピダムにまだ陽明けやらぬ刻届いた文があった。

“ピダム、酉刻北東の御苑に参じよ”
徳曼

と、それのみであったがピダムはその文を受け取った時の驚きは言葉では表せないほどだ

(!!徳曼…徳曼たしかにそう書いてある…)

ピダムはその名を穴の開くほど凝視して慌てて懐に仕舞いまるで鼓動を押さえるように胸に手をあてその文を抱いた。

今までピダムに対し女王からの文や言伝てなどで徳曼という署名や名をもってなされたことはなかったからだ。
それほどそれはピダムにとって驚くべき私信が女王いや愛する女から届けられたのだ。

その日は時の経つのが早いような遅いような…

「ピダム公!ユシン軍が戻って参りましたぞ。」

定時報告も終わるころあわてたようなミセンの声がが執務室に響いた。
その声を聞いたとたんそれまで心ここに有らずの程のピダムであったが一気に現実に引き戻されたようにずかずか入ってきたミセンを見た。

「…ユシンの帰着は明後日のはずでは?」

言いながら傍らのヨムジョンをギロリと見た。

「…そ、その筈ですが…」

いらいらした顔でこんどは続きを即すようにミセンを見た。

「確かですよ、今先ぶれが到着し陛下に報告申し上げに行くのに会いましたから。」

「………」

「あと一刻半もあればユシン軍も到着します月城はいやソラボルはまた奴等の手柄で持ちきりになりましょうな」

皮肉を滲ませてミセンは言う。

「ユシン軍?そのようなものはない!新羅には陛下の軍勢があるだけです!…」

(ユシンが帰ってくる…ヤツが…)

それきりピダムは押し黙り数刻後ユシン軍の勝利の帰還に沸き上がる月城のなかで司量部の一画だけは不自然なまでに静まりかえっていた。



まるでユシン軍の到着を待っていたかのように雪が静かに降り始めた…

(陛下は今頃ヤツと会っているのか…)

ピダムは一人執務室にいた。

(だがたとえユシンが帰って来たとしても…陛下はピダムをお呼びになった。それは変わらぬはず。)

そう思いピダムは卓上で組んだ手に強く力をいれた。



その夜のチュンチュはユシンが帰ってきた安心感からかそれとも叔母である女王との久しぶりの水入らずの夜に満足しているのか常以上に上機嫌であった。

(ピダム…ただ素直にお前に会いたいとは言えない、だけど…お前には解るはず)

女王は約束の時間が過ぎて行くのをなすすべもなくただ見送っていた。



この北東の御苑に来てどのくらいたっただろう…もうあの文の時刻はとうに過ぎている着いた時はちらちらと降っていた雪が今は静かな音なき音をたてて降りつつある…

“ピダム、酉刻北東の御苑に参じよ”
徳曼

胸のから文を出し読み返してピダムは破り棄てようとしてできずに強く片手で握りしめ人の気配すらない苑を見回し哀しげに口の端を上げた…誰かがもしその顔を見ていたら微笑みながら哭いているようにみえただろう…それほどトンマンが居ないトンマンが来ないことはピダムを傷つけた。

ピダムの去ったそこには彼が佇んでいた足跡があるばかりであった。

だがその足跡さえ雪は消し去ってしまうだろう……



ピダムが去って間もなく、僅かな心きいた女官のみをともないようやっと宮殿を抜けトンマンはここへやってきた。
もうあの刻をとうに過ぎているのは解っていたが…それでも彼女はピダムの姿を探した。

だが、探す男の姿はない。

(お前は行ってしまったのか…)

(トンマンを待たずにトンマンを信じずに…ピダム)

雪はそれが誰であろうと等しく降り女王の髪に衣に冷たく降りしきる。
涙が知らずにトンマンの頬をつたった。

「ピダム…」

淋しげな小さな声でそこにはもういない男のなを呼んだ…


ふわりと、その時トンマンを後ろから抱き締め包む腕があった。
その腕はまるで冷たい雪から彼女を守るように…
少しでもトンマンを温めたくて腕の主は彼女のその頬に口づけた。

「陛下…」

「………」

自分を待っていなかったピダムを責めたくてトンマンは抱き締めてくるピダムの腕に手を掛けた、だがその衣は凍えるように冷たくどれほど長い間ピダムが彼女をここで待っていたかをそれは伝えていた。

…そして、ピダムは戻ってきた。


「ピダム…すまない。」

「……陛下は簡単に謝らないでください。」

「だけど…トンマンだから‥今夜お前を呼んだのはトンマンだから……」

「いいえやはり謝らないでください。来てくださいました、ピダムのところへ来てくださいました…」

そう言いながらピダムはトンマンを胸に抱いた。

そんな二人にはあまねく等しく降る冷たい雪さえ儚く優しく舞い降りるのか…

トンマンの心にはピダムの積恋の想いがその雪のように静かに降り積もっていった。


そしてその夜、苑には雪の中の密やかな二人の想いのようにいずくからとも知れぬ、小さな柊の澄んだ花の香りがしていた。















*『積恋』お読みいただきありがとうございました。

雪のように降り積もる二人の恋心を書いてみたいなと思いこのお話ができました。

それからうさこは冬に咲く柊の花や水仙の白い色と香りが大好きです。 ̄(*^_^*) ̄

*今回、文の部分の署名を下げて書きたかったのですがスマホ、メモ機能で書いてコピーしてブログにあげているのですが上手くいきませんでした。
署名は下げた位置にあるものとしてお読みいただければ幸いです(ぺこん)

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天涯の涙…1

SS 愛してはいけないから(番外編…ミシル)


『天涯の涙』…1


*******


絢爛と咲き誇る新羅の蘭華…

その女は誰よりも美しく聡く気高く生まれた…

誰もその女の魅力にその微笑みに敵うものはない、王でさえ閨の中では彼女に膝まずく。


だが…その知略も美貌も全てを凌駕する女は聖骨として生を受けることはなかった。

ただそれだけのことが、新羅に乱を呼ぶ…





「いかがでございましょう」

主の望むことのみを行うよう厳しくしつけられた女官が銀細工の手鏡をその主に手渡しながらそう尋ねた。

女主はじっと鏡を見た、そこに映るは一部の乱れなく優美に整えられた髪と宝玉の髪飾りに縁取られた自らの美貌、それを眺め微かに笑い完璧な配置にあった簪を一本ふいに抜き取り不安定に斜めに差し直した。
そうすると、その簪が揺れて僅かに女の顔に陰を落とす…
唇の端を少しあげて微笑んだ彼女は耀くばかりの美しさのなかにその揺れる簪のような妖しさを一瞬で自ら潜ませた。


その時…

「ミシル様ソルォン様がお見えにございます。」

女官が来客をつたえた。

「…お通しして」

化粧を整えたミシルの部屋へ入って来たその男はまだ若い武将らしい清々しさを持った大帝の側近であった。


「……」

「………」

二人は静かなゆっくりとした朝の柔らかな日差しのさす中僅かな間見つめあっていた。
そして…

「璽主、」

ソルォンの緊張した眸とミシルの透き通るように澄んだ眸がぶつかりあいそして絡みあった。

彼女は男をなおも見つめながら言う。

「きっと陛下は貴方をお呼びになります明日か、いや今夜にも」

「……」

「このミシルは今日の命をソルォン様に預けます」

「!璽主…」

「このミシルの夢を叶えてくださいますか」

「…璽主私はもはや陛下の臣にあらず、このソルォンがお仕えするはただお一人にございます。」

ミシルはソルォンの眸の中にある男をその眸で捉え…
カタリと椅子から立ち上がりソルォンの肩に手をおき一瞬寂しげな少女のような顔で彼の胸に頬をよせた。


そして…

「ソルォン様のお心このミシル確かに賜りました。」


そう言って顔を上げた彼女の顔にはもうどこにも少女の面影などなくこの新羅に君臨しようとする何者にも動じぬ覇者の顔があった。



チヌン大帝はその日の宵璽主に遺言を託した、それは全てを見抜くはずの一手であった…

“後継者は太孫ペクチョンとしウルチェを上大等に任じ、法に従いクンニュン皇子と璽主ミシルはすべての政務から手を引き大帝の死後は仏門に帰依せよ”…と

ミシルにとって大帝と新羅は一つであった、だがこの時予期していた通り彼女の中でそれは分かれた。


昔、大儀など見えぬほどサダハムを恋し失った時の涙…
今、チヌン大帝と新羅、一つであったものが分かれた時の涙…

それは彼女ミシルにとってこれ以上の悲しみなど有るべきはずが無いと思い誓う涙であった。

(心から流す涙などもうこのミシルにはない…)



何かが音を立てて動き出すそんな天の波動がその夜ソラボルを包んだ

「璽主、陛下は全て見抜いておいででした」

寝台に横たわりソルォンから渡された大帝の詔勅を彼女は見つめた。


“新羅の敵ミシルを殺害し大儀を立てよ”と


彼女はゆっくり身をおこし艶然とした微笑みで


「陛下は新羅の最も偉大な王です、優れた眼識と洞察力をお持ちです」

「お悩みになりますか?」

「………」

「…お悩みなら新羅の敵このミシルを殺し大儀をお立てなさい」

彼女は本当に優しくたおやかに囁くような声でソルォンの後ろから彼の躰を包むようにそう言った。

「このソルォンは四年前すでに私自身の運命も新羅の運命をもすべて璽主に託した身です…」

大帝は知らない信頼すべき花郎の中の花郎ソルォンの心も躰も魂でさえミシルの手の中に堕ちたことを…

「では…ソルォン様はいかがなさるのですか?」

ソルォンはその時彼の背に軆を寄せる彼女の内側から強く、だが煙るようにただよう高雅な時代の芳香を感じた。

(時代の主になるはこの御方だ!)

若きソルォン頭の中にそう凛々と響く己自身の声をがあった。

ソルォンはグイと女の纏う透けるような薄紫の衣が乱れるほどの強さで彼女抱き締めた。

そしてミシルの艶やかな眸は煌めき

「準備なさい…」

ミシルはソルォンの心いや魂に直接話すようにそう言った。



「…かたづきました」

返り血をあびて頭を垂れるソルォンにミシルは微かに笑みを浮かべた、その夜月城はミシルの掌中に落ちた。

チヌン大帝という偉大な星が新羅から消えた日ミシルという大輪の華は大帝の鎖を破り見果てぬ夢をめざす…

(だが…あと一つ仕上げが必要なのだ…)

「このミシルが王妃にならなくては。」

その野望を果すためミシルの軆は大帝の息子、大帝の意志から外されたクンニュンの元へと向かった。

「遺言は…変えられます」

「この手をお取りなさい玉座をお望みなら…王の座は皇子様のものですそしてこのミシルも‥」

「ミシルを王妃になさいますか…?」

ミシルと皇子の影は重なり闇は月城を深く包んだ…


だがクンニュンは愚かにも彼女との誓約ともいえる誓いを破った。
誇り高きミシルにその罪を許すことが出来ようか?
否。
決して許しはしない。
王妃になることを阻まれた!
このミシルに側室になれと!?
彼女は自分の胸に抱いた吾子を王の去った玉座の前にそっとおいた。

「ごめんね…もう私にお前は必要ないの…」

二度と触れることない吾子を見つめ彼女の眸から枯れたはずの涙が一粒流れた…

そしてみどりごの声だけが母も父も去った玉座の前に響いていた。

その日ミシルの心に残っていた最後の涙が消えた。

天理を彼女はその掌に掴んだのだろうか、そして璽主の頬から消えた涙の行方など誰一人追うものはいない彼女自身でさえ…



新羅を統べる時代の主

“北斗の七つ星が八つにならぬ限り…”

ミシルにかなう者はまだあらわれない。











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宵の花びら

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白春の午後

SS 愛してはいけないから


『白春の午後』


*******


春の中の春…


その寂れた寺の辺りはにわかの女王の行幸に、野の花も蝶も小鳥の囀りでさえなにかしら華やぐようであった…


「ピダム…どの辺りだ…」

女王は輿の中から声をかけた。

「もうすぐでございます陛下。」

輿に馬をゆっくりと並び歩かせながらピダムは答えた。

「…そろそろこの窮屈なものから降りたい」

ぷすりとした声で女王は言う。

他の者やまして宮殿では決して言わない彼女の甘えたようなピダムに向ける我が儘な言葉を聞き思わず破顔した。

「お降りになりたいですか?」

「…降りたい」

「もうすぐ着きますが…」

「降りたい」

今度は我慢できずピダムは盛大に笑いお付きの女官や輿を引く者共を大いに驚かせた。

そして輿の垂れ絹を片手で上げ半身を輿の中へ入れ女王の腰を抱きよせて素早くだがおもわず追いかけたくなるような唇づけで小さな声を彼女に上げさせた。


「アッ…ん」


ピダムはそのまま彼女を引き寄せるように抱き上げて自らの馬へ同乗させた。

「ピダム!」

「陛下、ピダムと参りましょう」


「…お前が、そうしたいならそうしてやってもよい」


ピダムは少し拗ねたようにみせる物言いの可愛いらしさに彼女の腰に回す腕に僅かに力を入れ

「そうしたいです。ピダムは陛下とご一緒したいです。」

「ピ、ピダム声が大きい。」


「……誰も聞いておりません…」


「………」


やわらかく木々を揺らす風の音がした。


めったに人など通らぬ烏鷺寺へと続く山道を淡紅色に翠色の細い糸で模様のある衣の女と普段は黒しか着ぬのに珍しく蒼色の衣に鈍色をおびた山吹の帯姿の男はゆっくりと歩む馬の背に揺られていた。

「ピダム…静かだな、」

「烏鷺寺は昔私が師匠と暮らしておりました頃過ごした場所…」

「…ああ…出会った頃そうであったな、まだお前は国仙と一緒であった。」

「今はもう、ただの山奥の荒寺…」

「だが、お前がいた寺だ」

その言葉にピダムは心に刺さり抜けずにいた淋しさという棘がとれ温かな手があてらた、そんな気がした…。

「……陛下」


寂れた寺は今も変わらずまるで誰かを待つようにそこにあった。

「お手を…」

「…ああ」

踏降りた草からはやわらかく青い香りが立ち深山の景色の中に広がっていった。

「陛下、お見せしたいものがあるのです」

「…?」

ピダムは女王の手を引いた。

「誰も知らない春をお見せしたいのです。」

小首を傾げるように彼女はピダムを見つめ

「連れていけ…お前の春へ」

そういってキュッと手を握り返した。


深山の奥のその奥へつづら折りの道を二人は歩いていった。
言葉は交わさぬ…
ただ繋いだ手が二人の心を語っていた…


木々が分かれ表れたその景色は女王を魅了した…

「ピダムっ…」

そこには幾本もの山桜に囲まれひっそりと、うつしよのものとも思われぬほどの樹齢を重ねた桜の大樹があった…

言葉もなく見つめるトンマンの頬にピダムはそっと唇をよせた…

「ピダムぅ…」

そして花弁よりやわらかい彼女の唇に深く口づけた。


「やっ…ン、花が見ている」

その言葉を聞き不意に彼女を包むように抱き花から隠すようにふわりと後ろへピダムは倒れこんだ…


「あっ…ン」


静かに白い山桜の花がそよそよと風に散り、まるで空高くから舞い降るように二人の上に積もっていく。
静かな人里知れぬ深山にただ二人…

倒れこんだピダムの胸に抱かれてトンマンはこの時の中に閉じ込められていたいと思った。

ピダムは…じっと彼女を抱き締めながら


(降る花の白さ、儚いようでいて何にも決して染まらぬ美しさ
“トンマン…天地にただ一人の女”)

そうそっと心で言った。


花は音もなく散る…


それは…
鳥とそよぐ風のみが知る白春の午後であった。














*あけましておめでとうございます。

今年最初のSS は春の午後、春の中の春の二人を書いてみました。

ただ一人の女を愛し続ける男…
たった一人の男の腕を求めてしまう女…
でも二人は臣と女王…
今年もそんな二人を書いていけたら、と思っていたうさこの頭に元旦未明に浮かんできたお話 です。

今年も ̄(=∵=) ̄なりに楽しんで参りたいと思っております。
皆様、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。(ぺこりん)
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